タイマーは、指定した時刻や条件に合わせて行動を自動実行させるひみつ道具です。名前だけを見ると家庭用のキッチンタイマーに近い道具を想像しますが、作中での役割はそれより大きく、対象になった生き物の行動予定を外部から組み立ててしまう装置として描かれています。コミック15巻のネコが会社をつくったよでは、のび太が捨てネコを拾ってくる場面から話が始まります。かわいそうだから助けたいという気持ちは自然でも、家で飼うことをママに止められてしまい、のび太は困ります。そこでドラえもんが考えたのが、ただエサをやるだけではなく、ネコたちが自分たちで働けるようにするという発想でした。
タイマーの面白い点は、命令を一度出して終わる道具ではなく、時間割を与える道具に近いことです。ネコたちは決められた時間になると家の屋根裏へ入り、ネズミを追い出し、その報酬として食べ物をもらいます。のび太が拾ったネコを単なる保護対象として置いておくのではなく、地域の役に立つ仕事を任せる流れになっているため、ひみつ道具の使い方としてはかなり実務的です。ドラえもんの道具には、宿題ロボットや反応テストロボットのように作業を肩代わりするものもありますが、タイマーは本人や対象の行動を時間で整える側にあります。

ドラえもん15巻 ネコが会社をつくったよ P16:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
この道具を使ったドラえもんの判断は、のび太の優しさを現実に落とし込むための工夫でもあります。のび太はネコをかわいそうだと思って拾いますが、家の事情や世話の責任までは考え切れていません。そこにタイマーを使うことで、ネコたちがただ面倒を見られるだけの存在から、仕事を持つ存在へ変わっていきます。作中では会社のような形でまとまり、ネズミ退治という需要に応じて活動するため、ひみつ道具が小さなビジネスモデルを作っているようにも見えます。未来の道具が便利さだけでなく、仕組みそのものを変えてしまう例です。
一方で、タイマーには少しこわい面もあります。対象が時間になると行動するということは、本人の気分や判断より予定が優先される可能性があります。ネコたちの場合は得意なネズミ退治だから自然に見えますが、人間に使えば、生活の自由度をかなり奪う道具になりかねません。似た方向の道具としては、身体そのものを操作する人間あやつり機や、相手を遠隔で動かす人間ラジコンがあります。タイマーはそこまで露骨に操っているように見えないぶん、予定管理という顔をしながら行動を固定するところが特徴です。
ネコが会社をつくったよのエピソードでは、ドラえもんの商売感覚も印象に残ります。ネズミに困っている家は多く、ネコたちはその問題を解決できます。未来の装置で時間通りに派遣できるなら、依頼を受け、仕事をし、報酬を得る流れが成立します。道具そのものは小さくても、使い方しだいで人手不足や業務管理の問題まで解決できるのです。ロボットペーパーのように作業主体を作る道具とは違い、タイマーはすでにいる存在の能力を引き出すための管理装置として働いています。

ドラえもん15巻 ネコが会社をつくったよ P23:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
タイマーが便利なのは、作業のきっかけを人間が毎回出さなくてよい点です。のび太のように忘れっぽく、気分に流されやすい人物にとって、自動で予定が進む仕組みはかなり心強いものです。忘れ物対策のわすれぐすりと同じく、人間の弱さを補う方向の道具ですが、タイマーは記憶を補うのではなく、行動の開始を外から支えます。学校の宿題、家の手伝い、習い事の練習などに使えば効果は大きそうです。ただし、何を予定に入れるかを間違えると、そのまま間違った行動も時間通りに実行されてしまいます。
この話でドラえもんがすごいのは、ネコをかわいそうだと感じるだけで終わらせないところです。エサを与えるだけならその場しのぎですが、ネコたちが自分の特技を使って食べ物を得られるようにすれば、継続的な仕組みになります。タイマーはその仕組みを支える裏方です。ネコがどの家へ行くか、いつ仕事をするか、どう報酬を受け取るかという流れを、道具の力で整理します。小さな会社を動かすには、働く人材だけでなく予定管理も必要です。タイマーは名前こそ地味ですが、実際には運営の中心に近い役目を果たしています。
また、タイマーは未来の自動化の明るい面を見せています。人間がすべてを命令し続けなくても、最初に条件を整えれば対象が自分で動き出す。そのおかげで、のび太が毎日ネコの世話に追われるだけの展開にはなりません。反対に、条件の設定を誤れば、望まない行動も機械的に続いてしまいます。未来の便利さは、使う人が目的をきちんと決められる時に力を発揮します。ネコの会社がうまくいくのは、ネズミ退治という目的が明確で、ネコの能力にも合っているからです。
日常でこの道具を使うなら、朝起きる、宿題を始める、風呂に入る、寝る準備をするなど、生活リズムを整える用途がまず思い浮かびます。のび太にとっては夢のような道具ですが、本人がいやがる予定まで自動化すると反発も起こりそうです。タイマーは本人の意志を消す道具ではなく、意志を実行へ移す補助として使うのが自然です。やると決めたことを忘れないため、気分に負けないために使うなら、かなり健全な未来道具になります。
ネコたちに使われた点も、この道具の印象をやわらげています。もし人間相手に会社のような仕組みを作っていたら、管理される怖さが前に出たでしょう。けれども、ネコが得意なネズミ退治で食べ物を得る話になっているため、能力を生かす仕組みとして読めます。ドラえもんはただ未来の道具を出すだけでなく、対象の性質と地域の困りごとを結びつけています。タイマーは、道具の性能よりも使い方のアイデアが光るひみつ道具です。
この発想は、現代の予約投稿や自動配送にも少し似ています。人がその場にいなくても、決めた時間に必要なことが動くから、生活や仕事の幅が広がります。ネコの会社という小さな笑いの中に、時間を管理することで働き方を変えるという未来的なテーマが入っています。
この道具の魅力は、未来の便利さを日常の小さな困りごとに結びつけているところにあります。捨てネコをどうするかという身近な問題から、働く場を作るという方向へ話が広がり、最後にはネコの会社というユーモラスな着地になります。タイマーは派手な攻撃力も変身能力もありませんが、予定、労働、報酬を結びつけることで、かなり現実味のある便利さを見せています。ドラえもんのひみつ道具の中でも、社会の仕組みまで少し変えてしまうタイプの道具です。

