おもちゃの兵隊

おもちゃの兵隊は、5体の小さな兵隊が使用者を守るために自律行動する、かわいい見た目に反してかなり物騒な護衛用ひみつ道具です。命令を忠実に守りすぎるせいで、頼もしいボディガードにも、制御不能な攻撃部隊にもなってしまいます。

パズル優先のドラえもんが出した護衛部隊

登場するのはコミック4巻のおもちゃの兵隊です。いつものようにジャイアンに追いかけ回されるのび太が、公衆電話からドラえもんに助けを求めます。ところがこの時のドラえもんはパズルに夢中で、のび太を直接助けに行く気がありません。

そこで取り出したのが、5体1組のおもちゃの兵隊でした。1体はサーベルを持った指揮官、残り4体は銃剣付きの小銃を持つ兵隊です。ドラえもんは、いついかなる状況下でものび太を守れという趣旨の命令を出し、兵隊たちを送り出します。

薄情なドラえもん
ドラえもんは一体なにに忙しいというのか?

ドラえもん4巻 おもちゃの兵隊 P32:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

この場面のドラえもんは、わりとひどいです。のび太が本当に困っているのに、パズルの続きの方を優先しています。ただ、そのだらけた対応があったからこそ、おもちゃの兵隊という危険な自動防衛システムの性格がよく見える話になっています。

同じロボット・自動化系でも、トモダチロボットのように人間関係を補助する道具とは方向性が違います。おもちゃの兵隊は会話や感情の調整ではなく、危険を見つけたら即座に排除するタイプです。ロボットのおにのような遊びの相手にも見えますが、実態はもっと軍事的なんですよね。

小さいのに攻撃力が高すぎる

おもちゃの兵隊の攻撃方法は、銃剣で突くことと小銃を撃つことです。銃剣で刺す程度なら、相手がチクッと痛がるくらいで済む描写です。しかし小銃の方は、ジャイアンを黒焦げにして泣きながら逃げ出させるほどの威力があります。

ここで見逃せないのは、兵隊たちが小さいから弱いわけではないという点です。ドラえもんの道具では、サイズと威力が一致しないことがよくあります。むしろ小さいからこそ相手の足元に入り込みやすく、集団で動くことで大型の相手にも対抗できます。ジャイアン相手に結果を出している時点で、護衛道具としての実力はかなり高いです。

おもちゃの兵隊とジャイアン
ちょっとやりすぎな気もする

ドラえもん4巻 おもちゃの兵隊 P34:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

ジャイアン相手なら、のび太を守るという目的は達成しています。ただし、スネ夫が野球ボールを黒焦げにされたことに文句を言っただけで攻撃対象になり、しずかちゃんがのび太の背中を軽く押しただけでも発砲されてしまいます。この道具の怖さは、敵とそうでない相手の区別が雑なところです。

このあたりはころばし屋にも通じます。ころばし屋は依頼された相手を転ばせる道具ですが、名前の聞き間違いで別人を狙ってしまう危うさがあります。おもちゃの兵隊も、命令の解釈が広すぎるため、守るべき相手以外の周囲を巻き込みます。自動で動く道具ほど、命令の精度が大事になるわけです。

また、兵隊たちがのび太の感情を読んで行動しているわけではないところも重要です。のび太が本気で怖がっている相手だけを狙うのではなく、のび太に接触したり、文句を言ったりした相手を機械的に排除していきます。善悪の判断ではなく、命令条件に触れたかどうかで動いている。この割り切りが、ギャグでありながらかなり怖いところです。

あいまいな命令が一番危ない

ドラえもんが出した命令は、のび太を守れという意味では正しいものです。けれども、誰から守るのか、どの程度の危害を攻撃とみなすのか、攻撃してよい範囲はどこまでかが曖昧でした。おもちゃの兵隊はその曖昧さを、人間側に都合よく補ってはくれません。

黒焦げになるしずかちゃん
しずかちゃんは生きているか?

ドラえもん4巻 おもちゃの兵隊 P35:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

しずかちゃんまで攻撃対象にしてしまうのは、いくらなんでも過剰です。とはいえ、兵隊たちからすれば、のび太の体に接触した相手を排除しただけなのかもしれません。命令を忠実に守っているからこそ、結果が極端になる。この皮肉が藤子作品らしいところです。

自律的に動く道具としては、中古ロボットのように性能不足で失敗するパターンもあります。おもちゃの兵隊の場合は、性能不足というより判断基準の狭さが問題です。命令どおり動く力はあるのに、その命令を人間的な常識で調整できません。だから、道具としては優秀なのに、運用としては危険になります。

防衛道具として見るとかなり実戦的

おもちゃの兵隊は、戦闘用の道具として見るとかなり強力です。持ち運びやすく、5体で連携し、指揮官役までいます。小さな部隊として考えれば、おもちゃの兵隊という名前の軽さに反して、警護や追跡に使える本格的な自動兵器です。

もしドラえもんが現場に同行していれば、ここまでの混乱にはならなかったはずです。兵隊たちの行動を見ながら、今のは攻撃しなくていい、ここから先はジャイアンだけを止めればいい、と細かく命令を修正できたからです。つまり、この道具は単独運用よりも、監督者がそばにいる時にこそ真価を発揮するタイプです。

ただ、ドラえもんの世界にはもっと直接的な攻撃道具も多くあります。空気砲は使用者が狙って撃つ道具で、責任の所在がわかりやすい。ゆうどうミサイルは狙った対象を追いかける点でおもちゃの兵隊に近いですが、こちらもターゲット設定が前提になります。おもちゃの兵隊は自律性があるぶん、使用者の目が届かないところで判断してしまう怖さがあります。

面白いのは、ドラえもん自身も最後には攻撃されることです。パズルを崩されて怒ったドラえもんが兵隊たちに文句を言うと、のび太を守る命令の延長でドラえもんも対象になってしまいます。自分で出した命令に自分が巻き込まれるという、かなりきれいなオチです。

銃撃されるドラえもん
パズルを崩されて本気で怒るドラえもん

ドラえもん4巻 おもちゃの兵隊 P37:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

かわいい見た目にだまされない道具

おもちゃの兵隊は、名前だけ聞くと子どもの遊び道具のようです。けれども実際には、命令ひとつで人間を黒焦げにする危険な防衛装置です。見た目が小さくてかわいいほど、発砲した時のギャップが強く残ります。

この道具が教えてくれるのは、便利な自動化ほど使う人間の責任が重くなるということです。ドラえもんが少しでも具体的に命令していれば、スネ夫やしずかちゃんまで被害を受けることはなかったはずです。道具が暴走したというより、命令の粗さがそのまま結果に出た話なんですよね。

のび太を守るという一点では、これほど頼れる護衛もなかなかありません。ただ、守ることと傷つけないことは別です。その境界を小さな兵隊たちに任せきってしまう危うさこそ、おもちゃの兵隊の忘れがたい魅力です。

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