チリつもらせ機は、日本中からほんのちょっとずつ特定の物を一箇所に集めることができるひみつ道具です。目に見えないほど小さなかけらを全国から集めて、巨大な量にしてしまいます。塵も積もれば山となるという言葉をそのまま実現したような道具で、コミックプラス6巻チリつもらせ機で幸せいっぱい?に登場します。
みんなからおすそ分け
どら焼きを切らしてしまったドラえもんは気が狂うほど暴れまわります(どら焼き中毒ともいう)。
どら焼き禁断症状 出典:ドラえもんプラス6巻「チリつもらせ機で幸せいっぱい?」P27:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ドラえもんがこっそりチリつもらせ機を使っていることがのび太にバレ、のび太は日本の土地をちょっぴりずつ集めて家の隣に広大な土地を手に入れたのです。ところが固定資産税を支払っていないだの、ゴルフ場を建てるなだの追い込まれてしまうのでした。土地を手に入れることはできても、その後の管理コストや権利関係の問題まではチリつもらせ機では解決できないということです。ひみつ道具が解決できるのはあくまでも物理的な問題だけで、社会的な責任まで代わりに担ってくれるわけではないのです。
のび太の行動力の高さ 出典:ドラえもんプラス6巻「チリつもらせ機で幸せいっぱい?」P34:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
日本全国から少しずつ土地を集めてしまえば広大な土地が手に入るという発想は、のび太らしい大胆な発想ですが、当然ながら現実には多くの問題があります。固定資産税という税金の問題はその最たるもので、道具で簡単に手に入れた土地も、管理するためにはきちんとした手続きが必要だということを示しています。ひみつ道具で何でも解決しようとするのび太の考えの甘さが、ここでも浮かび上がります。
ちょっとずつ集めます
チリつもらせ機は日本にある特定の物を少しずつ一箇所に集める機械です。
例えば、手元にどら焼きがなくても日本全国には何万個ものどら焼きがある。そのどら焼き一つ一つから見えないほどのかけらを一箇所に集め、巨大などら焼きを出現させるという具合です。
ドラゴンボールでいうところの元気玉みたいなイメージです。
この道具が面白いのは、集める物が何であれ、日本中に少しでも存在していれば原理上は集められるという汎用性の高さです。どら焼きのような食べ物から、土地という不動産まで、物理的に存在するものなら何でも対象になります。ただし、集める際に各地から少しずつ持ってきてしまうため、その影響が広範囲に及ぶという問題もあります。
どら焼きの場合、全国のどら焼きから見えないほどのかけらを集めるわけですが、それだけ多くのどら焼きがわずかずつ小さくなるということを意味します。一つ一つのどら焼きからすれば気づかない程度の変化でも、理論的にはその価値が少しだけ失われています。こうした誰にも気づかれないが確かに影響があるという行為の倫理について、この道具は問いかけているとも取れます。ドラえもんが恥ずかしい道具と評したのは、こういう背景があってのことでしょう。22世紀の技術でも、使い方の正しさは結局その時代の人間の倫理観に委ねられているのです。
お金に使うのは泥棒
日本全国民から1円ずつ徴収すれば一気に1億円以上の現金が手に入る!なんて考えをしたことがある人もいるでしょう。
チリつもらせ機があればそれも簡単に実現できてしまうわけですが、それは泥棒していることと同じことだと、のび太はドラえもんによって静止されました。
1円という少額でも、それが積み重なれば大きな金額になります。そして、その1円は誰かが稼いだお金です。チリつもらせ機を使って他人の所有物を少しずつ集めることは、金額の大小にかかわらず窃盗と変わりません。のび太の発想は現実的な欲求から来るものですが、それを実行すれば大きな問題になると気づかない点は、彼の判断力の甘さを示しています。
また、土地を集めた時の問題も同様です。日本中の土地からわずかずつ集めるということは、その土地の持ち主から無断で土地を奪っているとも言えます。目に見えないほど小さな量であっても、それは立派な不法行為です。ドラえもんが恥ずかしい道具と言ったのも、こうした倫理的な問題があるからかもしれません。便利な道具でも、使い方によっては他者に迷惑をかけてしまうという教訓が、このエピソードには込められています。
バイバインのように物を指数関数的に増やす道具とは違い、チリつもらせ機は全国各地に分散している物を一点に集めるという仕組みです。増やすのではなく集めるという点で根本的な違いがありますが、どちらも少ないものから大量のものを手に入れるという目的には向いています。ただし、バイバインは自分の持ち物に使うのに対し、チリつもらせ機は他者の所有物からも集めてしまうため、倫理的な問題が生じやすいといえます。また、ビッグライトのように物を大きくする道具もありますが、それは元の物を拡大するだけですが、チリつもらせ機は散らばった物理的な量を一箇所に集めるという、全く異なるアプローチで大きな物を手に入れるを実現しています。
少人数が使うから意味のある道具
目に見えないかけらを集めるとはいえ、集める人が多くなればなるほど効果が低減します。
誰にも気づかれないようこっそり集めて自分のものにするのがチリつもらせ機の特徴で、ドラえもんも最初はこんな恥ずかしい道具は使わないと断言していたほどです。
もしたくさんの人がチリつもらせ機を知ってしまうと日本全国で奪い合いになってしまうため、道具の効果が半減してしまうでしょう。
ドラえもんが恥ずかしい道具だから使わないと言ったのは非常に興味深い発言です。便利さではなく、使うこと自体が恥ずかしいという評価は、道具としての倫理的な問題を端的に表しています。22世紀の道具でありながら、正直に使えないような設計になっているこの道具は、ひみつ道具の中でも特異な存在といえます。のび太に使い方を見られてしまったことで、ドラえもんが恥ずかしい思いをしているという描写も、この道具の性質をよく表しています。
同じコミックプラス6巻のガチガチンやセルフアラーム、新聞社ごっこセットと合わせて読むと、この巻の道具がいかに日常に根ざした欲求を起点にしているかがわかります。どら焼きが欲しい、強くなりたい、時間を忘れたくない、ニュースを作りたいという、子供らしい素朴な欲から始まる物語が、チリつもらせ機が登場するエピソードにも共通しています。欲望を道具で叶えようとするが、必ずどこかで問題が生じるというパターンは、この巻を貫くテーマでもあります。
チリつもらせ機はまた、小さなことを積み重ねる大切さというメッセージとも読めます。日本全国のどら焼きのかけらが集まって一つの巨大などら焼きになるように、地道な積み重ねが大きな成果を生むという考え方は、努力を怠りがちなのび太への皮肉としても機能しています。道具に頼って楽をしようとするのび太が、その道具でさえ使い方を誤って痛い目を見るという展開は、何事も正しい方法で取り組む大切さを示しています。ひみつ道具は近道のように見えても、使う人間の器と知恵が試されるのです。




