2つのものを1つに合体させてしまうひみつ道具、ウルトラミキサー。吸盤状のコードを合体させたいものにくっつけてスイッチを押すだけで、生物同士でも無機物同士でも、さらにロボットと人間でも自在に合体させてしまう、発想の奇抜さが際立つ道具です。
犬と猫を合体
ケンカする犬と猫に手を焼いているしずかちゃん。その様子をみたドラえもんが出した道具がウルトラミキサーです。この道具を使うと何でも合体させることができるとのことで、ドラえもんは犬と猫を合体させて新たな生物を作り出してしまいます。
かわいい見た目 ドラえもん7巻「ウルトラミキサー」P117:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
いわゆるキメラです。見た目こそ上手に合体しているように見えますが、果たして犬の性質と猫の性質がどのように混じり合っているのか、そこは答えが出ていません。犬と猫の都合もあるでしょうし、人間の都合で勝手に合体させられたら困ってしまいますよね。
しかし見方を変えると、ケンカしていた2匹が1つになってしまえばケンカは物理的に起きなくなります。問題解決の手段として力技すぎますが、ドラえもんのひみつ道具の中でも特に強引なアプローチといえます。そして合体した生物はいったいどちらの意志で動くのか、どちらの習性が強く出るのか、そういった疑問を残したまま話が進んでいくのもこのエピソードの特徴です。
ツボとお風呂を合体
家ではパパとママがケンカをしていました。パパが大きなツボを気に入って買ってきてしまい、それを見たママがそんな大きなものをどこに置いておくのと文句を言っているのです。
使いみちがないツボ ドラえもん7巻「ウルトラミキサー」P118:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
それを見ていたドラえもんは、ウルトラミキサーを使い、ツボとお風呂を合体させてしまいます。
これはおしゃれ ドラえもん7巻「ウルトラミキサー」P118:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
さすがにこれはパパがどう考えても悪いですね。使いみちのない大きなツボ、家のどこに置いておくつもりだったのでしょうか。ママが怒るのも無理はありません。それにしても、合体して出来上がったバスタブはこれはこれでかなりいい仕上がりになっていると感じるのは私だけでしょうか。ツボ型の浴槽は現代のインテリアにも通じるデザインで、コミックが描かれた当時よりも今の方がむしろ受け入れられやすいかもしれません。
ウルトラミキサーで合体したもの
気をよくしたドラえもんとのびたは、次々と合体させます。
- ゴミ箱と掃除機
- タンスとテレビ
- トースターとアイロン
- ひげ剃りとライター
- 冷蔵庫とトイレ
さすがに冷蔵庫とトイレはやりすぎです。これは怒られます。
用を足すにはどうすれば? ドラえもん7巻「ウルトラミキサー」P119:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
最終的にはパパとママからやりすぎとお叱りを受けるわけですが、こういう好奇心がのびたを育てるということも忘れてはいけません。まずはやらせてみて、その結果を自分で認識させるという寛大な心が大切ですね。
この合体リストを見ていると、面白い組み合わせもあります。ゴミ箱と掃除機の合体は、ゴミを吸い込んでそのままゴミ箱として機能するという意味で実は合理的です。タンスとテレビは場所を取るという共通点から合体させたのかもしれません。トースターとアイロンは熱を使うという点で共通しますが、パンに服のシワが移りそうで実用的には疑問が残ります。ひとつひとつの合体の結果を想像するだけでも楽しいエピソードです。
のびえもんは大失敗
最終的にはドラえもんとのびたで合体しようということになりましたが、お互いやりたいことがバラバラなため、1人でケンカしてしまう始末。
ドラえもんが強すぎる ドラえもん7巻「ウルトラミキサー」P121:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
このことからわかるように、生き物を合成しても、お互いの意思や考え方は残るということです。それぞれの意思で体を動かしたり、ものを考えたりできるので、結局は合成したところで不便なだけ。最初に紹介した犬と猫の合成した生物も、今頃大変な思いをしながら生活しているのでしょうか。
のびえもんというネーミングは当然コミック中にはありませんが、ドラえもんファンの間ではそう呼ばれることがあります。体はのびたで頭はドラえもん、あるいはその逆、といった見た目になったのか、コミックでの描写がどうなっているか気になるところです。合体後も互いの意識が独立して存在し、同じ体を巡ってケンカするという発想は、哲学的にも興味深いテーマです。人格と肉体の関係という深いテーマを、ギャグとして描ききってしまう藤子先生の手腕が光っています。
ウルトラミキサーの仕様
ウルトラミキサーは、本体から伸びたコードの先の吸盤を合体させたいものにくっつけ、スイッチを押すことで作動します。合体時のデザインは勝手に決まるようで、その機能も基本的にそれぞれの特徴を持ったものになります。合体させられるのは生物同士か無機物同士に限られると思われましたが、最後ののびえもんの存在で、ロボット(無機)と人間(生物)の合体も可能であることが判明します。
ウルトラミキサーで気になるのは、合体したものを元に戻す機能があるかどうかという点です。コミックでは元に戻す描写はなく、合体させた後どうなったかが描かれていない組み合わせも多くあります。最初の犬と猫の場合、このまま一生合体した状態で生きていくのでしょうか。道具を使う前にその後のことも考えるべきというドラえもんの教訓が、このエピソードでも反面教師的に示されています。
似たひみつ道具
似たような道具には、コミック13巻とドラえもんプラス5巻に出てくる合体ノリがあります。これは生物限定で身体を合体させることができて、3人で一人に合体することも出来ます。
ウルトラミキサーが問いかけること
ウルトラミキサーは笑えるひみつ道具ですが、合体したものを元に戻せるのかという問題は深刻です。のびえもんの場合は話の終わりには元に戻っているようですが、犬と猫の合体生物はその後どうなったのか、コミックでは明らかにされていません。
生命倫理の観点から見ると、意志のある生き物を本人の同意なく別の生き物と合体させることは、かなり問題のある行為です。しかし子どもが主役のコミックの中では、こういった深刻な問題はギャグとして描かれ、読者もそれを笑いとして受け取ります。それがドラえもんというコミックのバランス感覚です。
一方で、無機物同士の合体は現代技術の延長線上にあります。異なる素材を組み合わせた複合材料、複数の機能を1つにまとめた複合家電など、ウルトラミキサーのコンセプトは現代のものづくりの方向性と一致しています。ゴミ箱と掃除機の合体は現代でいえばロボット掃除機に近い発想です。タンスとテレビは収納一体型テレビとして実際に販売されている製品もあります。ウルトラミキサーが描いたアイデアは、時代を超えて現実に近づいているのかもしれません。
合体・コピー系のひみつ道具は他にも多く登場します。合体ノリは生物限定で身体を合体させられる道具で、ウルトラミキサーと同じ合体の発想を生物に特化させた道具です。コピーロボットは自分そっくりの分身を作る道具で、分裂という意味では合体の逆方向ですが同じ存在の複数化という発想に通じます。立体コピー紙は物体を立体的にコピーする道具で、物体を操作するという観点で共通します。トカゲロンは壊れたものを元に戻しつつクローンも作れる道具で、物体を操作するという点で共通します。何でも合体させてしまうウルトラミキサーの大らかさは、これらの道具の中でも群を抜いていて、のびたとドラえもんのはしゃぎっぷりを引き出すのに最適な道具です。発想の面白さとオチのしっかりしたエピソード構成が両立した、ドラえもん7巻の中でも特に楽しいお話として記憶に残ります。







