水のある場所から別の水のある場所へ、瞬時に移動できる潜水艦。それが瞬間移動潜水艦です。
普通の潜水艦は海の中を推進力で進みますが、この道具はまったく違うコンセプトで動いています。水のある場所同士をつないでジャンプする、いわばどこでもドアの水中版と言える発想の道具です。
たとえばお風呂から海へ
コミック6巻「せん水艦で海へ行こう」に登場するこの道具の使われ方が、まず笑えます。モーターボートに乗って海へ行くと自慢するスネ夫。いつも通りみんなを誘いながら、いつも通りのびただけが仲間外れにされます。
それを聞いて怒ったドラえもんは「なら、こっちは潜水艦で行こう」と提案。取り出したのは手のひらサイズの小さな潜水艦でした。
ゴムまりの手でよく持てるなと感心 ドラえもん6巻「せん水艦で海へ行こう」P116:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
水に浸けるとその容器の大きさに合わせて伸縮するという機能が面白いところで、お風呂で人間の乗れる大きさまで大きくして、のびたとドラえもんは乗り込みます。
ここからが瞬間移動潜水艦の本領発揮で、水のある場所から場所へとジャンプ(瞬間移動)できるのです。作戦は「水から水を渡って海に向かう」というシンプルなもの。ジュースの中や金魚鉢の小さなものから、洗濯機にトイレに下水道など、あまりきれいじゃない場所まで通りながら、次のジャンプで海にたどり着けるようになっていきます。
熱湯の中で拷問である ドラえもん6巻「せん水艦で海へ行こう」P122:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
しかし次についたのは熱いお湯の中。何とそれはモーターボートの中でスネ夫が飲もうとした、熱いお茶の入った水筒でした。こうして二人は無事(?)海にたどり着いたのでした。
水から水をジャンプするという発想で、ドタバタ劇に拍車がかかるという設定がなかなか秀逸なお話です。ちょっとやそっとではなかなかたどり着けない上に、出現場所も変なところばかりと、全編がギャグで構成されています。洗濯機やトイレを通過するという描写は子どもが読むと腹を抱えて笑える場面ですが、考えてみると水があるところに無条件でジャンプするというシステムの設計上の欠陥でもあります。海という目的地に向かうには水の連鎖を辿るしかなく、途中でどんな場所に出現するか予測できないというのが、この道具の最大のユーモアです。
瞬間移動潜水艦の性能
スペックとしては、通常の大きさは二人乗りで、潜水艦というよりも潜水艇といった方がいい感じの外見をしています。地底探検車と比べると水中特化型と言えます。
水に浸かるとそのサイズによって大きさを変えますが、人が乗っているとその人間ごと伸縮するようになっています。最大の特徴である水から水へのジャンプはあまり遠くに飛べるわけではなく、近所で水分のあるところ限定です。
コンパスを器用に操るドラえもん ドラえもん6巻「せん水艦で海へ行こう」P121:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
自分で出現場所を自由に選ぶことはできません。瞬間移動という高いテクノロジーが使われているにもかかわらず、目的地に到着するのにかなりの時間を要するため、便利な感じがあまりしないのも特徴です。目的地に向かうためのナビゲーションはコンパスを使って行うようで、水のルートを読みながら進んでいく仕組みになっています。
コンパスで方向を確認しながら次の水場を選ぶというのは、地図とコンパスを使って山を歩くようなアナログな感覚です。最先端の瞬間移動技術を使いながら、ナビゲーションはコンパス頼みというアンバランスさが、この道具の愛嬌でもあります。
しずかちゃんの中にも入ります
そんな微妙な性能の瞬間移動潜水艦ですが、コミック10巻「たとえ胃の中水の中」で再登場しています。この話では、ママのオパールを誤飲したしずかちゃんの身体の中にあるオパールを取りに行くという目的で使われています。ただしこの時は潜水艦の大きさが自動的に小さくなる描写はなく、スモールライトを使って自分たちで小さくしています。
ドラえもんに登場するひみつ道具は、使われるシーンによって性能が変わることがあります。人体の中という極めて特殊な環境に対応したのか、それともあえてスモールライトと組み合わせることで別のドタバタを生んだのか、どちらとも受け取れる演出です。
しずかちゃんの体内という設定は、ドラえもんコミックの中でも特に奇抜なアイデアの一つです。体内を潜水艦で移動するというSF的発想は、ミクロの決死圏(1966年のSF映画)の影響を受けた可能性もあります。藤子先生はSFへの造詣が深く、海外のSFから多くのインスピレーションを得ていたことが知られています。
大きさが変わることによる弊害
瞬間移動潜水艦は、周りの状況に合わせて大きさが自動的に変わります。世界で一番水がある場所といえば……そう、海です。コミックではスネ夫の水筒の中にジャンプしたところでストーリーが終わりましたが、もしそれから数回ジャンプした場合、瞬間移動潜水艦は海水に反応して海に飛び出すことが予想されます。すると潜水艦は海の大きさに合うように、超巨大化するかもしれません。
安全装置のようなものが働き、大きさに上限があることも考えられますが、そこのところはどうなのでしょうか。もし大きさに上限がなければ、太平洋全体を満たすほどの巨大潜水艦が出現するという、SF映画を超えた怪異が起きてしまいます。ドラえもんの道具は思わぬ方向に暴走する可能性を秘めているという点でも、瞬間移動潜水艦は要注意の道具です。
水から水へというコンセプトの面白さ
瞬間移動潜水艦の最大の特徴は、水のある場所同士をつないでジャンプするという発想にあります。どこでもドアが目的地を直接指定できるのに対し、瞬間移動潜水艦は水という媒体を介してしか移動できません。この制限が道具の使い勝手を下げていますが、同時にそれがコメディとして機能しています。
水は地球上のあらゆる場所に存在します。雨水、川、池、水道管、体内の水分、大気中の水蒸気……数え上げればきりがありません。理論上は地球上のどこにでもつながれるはずですが、実際には近所にある水場から水場へのジャンプしかできないという制限があります。この曖昧さが、下水道やトイレという予期せぬ場所に出現してしまうドタバタを生んでいます。
コミックの中でドラえもんがコンパスで方向を確認しながら進む姿は、最先端技術と原始的なナビゲーション手段の組み合わせとして際立ちます。どこへ行けるかわからない、でも水さえあれば必ずどこかに出られる。その不安定さとワクワク感が同居しているのが、瞬間移動潜水艦の魅力です。
いずれにせよ、四次元三輪車や快速シューズのような陸上の移動道具とは一線を画す、水中専用の移動手段として面白い位置付けの道具です。エラチューブと組み合わせれば、水中冒険もより快適になるでしょう。モモボートや風船いかだなど水上で使う乗り物系ひみつ道具は他にもありますが、この潜水艦は水中移動に特化した点でユニークな存在です。水中というフィールドでドタバタを繰り広げる道具として、読んでいて最後まで楽しい一本です。水から水へのジャンプというシンプルな発想が、複雑で予測不能なドタバタ劇を生み出す。その構造の巧みさが、瞬間移動潜水艦のエピソードをドラえもんの初期コミックの中でも特に記憶に残る話にしています。誰もが知っている身近な水という素材を出発点にして、非日常の大冒険を描いたこの道具の発想力は、今読んでも色あせません。瞬間移動という最先端技術がコミカルなドタバタ劇に変わってしまうというオチの完成度の高さは、藤子先生の卓越したユーモアセンスを改めて感じさせてくれます。





