みちび機

迷った時の適切な行動を示してくれる便利なひみつ道具みちび機は、その通りに動けばかならずいい方向に事が進むという、人生の羅針盤ともいえる道具です。コミック13巻のエピソードに登場します。

0点のひみつを守りきれ!

テストでまた0点を取ってしまったのび太。ママに打ち明けるタイミングをはかっていますが、ドラえもんが出したみちび機によると、わざわざ夜7時に告白せよという指示がでました。不思議に思いながらその時間を待つのび太ですが、待っている間もみちび機は正確なお告げを示してくれます。

不思議な指示ではあるものの、結果的にすべていい方向に問題が解決したのです。いよいよ夜7時になり、パパが仕事から帰宅し、叱る人が増えてしまったことを嘆くのび太です。身を隠していた物置の古い書物の中からパパの昔の答案(0点)を発見し、それを見たパパはのび太を叱ることができなくなり、一件落着となりました。みちび機の指示した夜7時という時刻は、パパが帰宅してこの書物を発見するための絶妙なタイミングだったわけです。

パパが取った0点の答案
ドラえもんとのび太の顔にも注目だ

ドラえもん13巻「七時に何かがおこる」P124:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

みちび機が示す指示は、一見理不尽に見えても必ず意味があります。この道具が単に行き先を示すカーナビ的なものではなく、状況全体を把握した上で最善の行動を計算して出力するという高度な仕組みを持っていることがわかります。のび太が普段からこういう道具に助けられながら生活しているというのは、ある意味でのび太の本質的な才能のなさを補完する道具として機能しているともいえます。

信頼できるアドバイス

みちび機のお告げを守れば間違いなくいい方向に事が進みます。みちび機の効果を示すためにドラえもんがジャイアンを蹴飛ばすシーンがありますが、普通に考えたらジャイアンもカンカンに怒りますよね。

ジャイアンを後ろから蹴り上げるドラえもん
世にも恐ろしいシーン

ドラえもん13巻「七時に何かがおこる」P122:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

でもこの時ジャイアンは喉にアメをつまらせて苦しんでいたようで、ドラえもんのキックのおかげでそれが取れたということで、逆に感謝されたのです。その効果に驚くのび太ですが、しっかりみちび機を信じてついていくことで、必ずやいい結果に結びつくのです。

一見理不尽に見えるアドバイスでも、その背景には見えていない事情があるということが、みちび機の設計思想として面白いところです。人間の目には見えていない状況を見越した上で最適な行動を提示しているわけで、これはある意味でドラえもん的な未来予知の一形態ともいえます。よかん虫が予感を実現させるという方法をとるのに対し、みちび機は具体的な行動を指示するという点で、アプローチがまったく異なります。みちび機は使う人の心の状態に関係なく機能するという点で、よかん虫よりも扱いやすい道具といえるかもしれません。

信じて従い続けることさえできれば確実にいい結果が出るというのは、悩みがちな人間にとってはありがたい道具です。現代でいえば、経験豊富な人生の先輩や実績あるコンサルタントに相談するようなものですが、みちび機はそれを瞬時に、しかも感情なしに最適解として提示してくれます。ただ、みちび機の言う通りに動けばうまくいくとわかっていても、それを信じて行動する勇気が必要なのは変わりません。ドラえもんのキックという荒技を指示されても従ったドラえもんの胆力がなければ、結果は変わっていたかもしれないわけです。

パパののび太

のび太が0点の答案をママに打ち明けるかどうか迷うシーンで、のび太は自分の右手と左手でジャンケンをし、それで次の行動を決めようとしていました。

1人でジャンケンするのび太
あてのない勝負

ドラえもん13巻「七時に何かがおこる」P119:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

普通に考えるとなんてバカなことをしているんだと笑い飛ばすシーンですが、実はのび太のパパも昔おなじようなことをやっていたのです。

1人でジャンケンするのび太のパパ
こちらもあてのない勝負

ドラえもん43巻「のび太が消えちゃう?」P132:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

上が問題のシーン。のび太のパパの若かりし頃の様子ですが、金満(かねみつ)さんという家のお嬢さんをお嫁さんにするかどうかで迷っているシーンです。左右の手でジャンケンをし、その結果次第で次の行動を決めようとするなんとも残念な様子です。このパパの子どもなので、のび太が取った行動にも納得できますね。

迷ったときに何かに頼ってしまうというのは、のび太親子に共通する人間的な弱さです。ただ違うのは、コインや自分とのジャンケンに頼るか、みちび機という確実な指針に頼るかという点です。みちび機があれば、パパも迷わずに最善の判断ができたかもしれません。もっとも、みちび機がなかったおかげで人間的な迷いや失敗が生まれ、それがドラえもんの面白さになっているともいえます。

みちび機さえあれば人生安泰?

迷った時の道標になるみちび機。これさえあれば、人生何が起こっても迷うことなく、失敗することもありません。みちび機がいうように行動すれば全てうまくいくのです。普通の人間からすれば喉から手が出るほど欲しいひみつ道具の1つなのですが、それをマンガの中でやってしまうとドラえもんの面白さが無くなってしまいます。

それに、道具に頼り切った人生では自分で道を切り開く人に成長してほしいという藤子先生の想いがあったかどうかは定かではありませんが、これ以降みちび機が登場することはありません。人生イージーモードで堕落しきった生活にならないよう配慮した結果なのかもしれませんね。道具を一度だけ使って状況を打開するというのと、常にみちび機に頼り続けるというのでは、のび太の成長に与える影響がまるで違います。藤子先生は道具を物語の起爆剤として使いながらも、最終的にはのび太自身の可能性を信じる描き方をしていることが多く、みちび機がワンエピソードで退場した理由もそこにあるのかもしれません。

探偵・調査系の道具として眺めると、場所をさがす機械人探し機が特定の場所や人物を探すのに対し、みちび機は状況全体を把握した上で最適な行動を指示するという、より高次な判断能力を持っています。またさいなん報知機が危険の接近をブザーで知らせるだけなのと比べると、みちび機は危険を回避するための具体的な行動まで示してくれるという点で実用性が高い設計です。トレーサーバッジのように位置情報を追跡する道具とも異なり、みちび機は未来への行動指針を与えるという点で、ドラえもんの道具の中でも特別な存在感を持っています。

みちび機が示す行動の謎

みちび機の指示はどのように算出されているのでしょうか。コミックでは道具の内部構造は描かれていませんが、現在の状況を正確に把握し、複数の行動パターンとその結果を予測して最善の行動を選び出すという、かなり高度な演算を行っていることが推測できます。現代でいえばAIのシミュレーションに近い発想ですが、みちび機はそれを瞬時に、しかもコンパクトな道具の中で実行しています。

面白いのは、みちび機が示す行動が常に現時点での最善手だという点です。状況が変われば最善手も変わるはずですが、コミックの描写を見る限り、みちび機は状況の変化にリアルタイムで対応しながら指示を更新しているようです。ジャイアンを蹴飛ばせという指示が出た直後に、その結果としてジャイアンの喉のアメが取れるという展開が続くのも、みちび機がその結果まで計算した上で指示を出していたからだといえます。

こういう高度な予測と計算を当然のようにこなすみちび機ですが、だからこそ一度しか登場しないというのが絶妙です。人間が自分で考え、失敗し、それでも立ち上がるというドラえもんの根底にある精神と、何も失敗しない便利な道具の存在は本来相容れません。みちび機はその矛盾を体現する道具として、一度きりのエピソードに留まったのかもしれません。

また、みちび機が示す指示に従うかどうかは結局のところ使う人の判断です。みちび機が夜7時に告白せよと示しても、のび太がそれを無視してしまえば意味がありません。のび太がみちび機の指示を疑いながらも最終的には従ったことで、よい結果が得られたわけです。道具の性能が高くても、使う人の信頼と実行力がなければ機能しないという点は、みちび機に限らずドラえもんの道具全般に通じることです。

コミックをよく読んでいると、のび太は道具の指示に半信半疑になりながらも従う場面が多く、それが結果的にうまくいくという展開が繰り返されています。のび太の素直さというか、疑いながらも動いてみるというその行動特性が、みちび機のような道具を最大限に活かす素質でもあります。頭でっかちになって動かない人間よりも、疑いながらも一歩踏み出せる人間の方が道具の恩恵を受けやすいというのは、ドラえもんが一貫して描いてきたメッセージのひとつかもしれません。一度きりの登場ながら印象に残るエピソードを生み出したこの道具は、ドラえもんの世界観ならではの奥深さを感じさせます。

おすすめの記事