はこび矢(どこでも行ける矢)

あらかじめ設置した的に空を飛んで移動することができるひみつ道具、それが「はこび矢(どこでも行ける矢)」です。普段から頻繁に行き来する場所に的を設置しておくことで効果を発揮します。

アニメバージョンでは「どこでも行ける矢」として登場します。矢を空中に向かって放つと、的に向かって空を飛んで移動することができるという、弓道のような発想が面白い道具です。

移動は矢

遅刻常習犯ののびたが朝の時間をゆっくり過ごしているのには理由があります。学校にあらかじめ「はこび矢」の的を設置していたため、ものの数秒で学校に到着することができるからです。

はこび矢で学校に移動するのびた
あっという間に移動可能

ドラえもん13巻「弓やで学校へ」P49:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

しずかちゃんの家や空き地に的を設置しているので、街の中をピュンピュン飛び回って移動するのびた。その様子を羨ましく思ったジャイアンとスネ夫にはこび矢を奪われてしまいますが、野良犬が的をドブ川に捨ててしまったため、2人は大変な目に合ってしまうのでした。道具を奪ったジャイアンとスネ夫が最終的に自業自得の結末を迎えるというオチは、ドラえもんのひみつ道具を巡るエピソードの典型的なパターンであり、読者に痛快な気持ちを与えてくれます。

ドブ川に捨てられた的に向かってはこび矢で飛び込むジャイアンとスネ夫
ドブ川に落ちると精神的につらいものがある

ドラえもん13巻「弓やで学校へ」P54:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

のびたの移動先

はこび矢で移動するためには的を設置しておく必要があります。のびたが選んだ場所は4つです。

  1. 自宅
  2. 学校
  3. しずかちゃんの家
  4. 空き地

それぞれ色が違う的を置いているので間違うことがありません。もし会社員が使うなら、これに会社と飲み屋が加わるでしょう。わずらわしい移動時間が大幅に短縮できるので、忙しいサラリーマンにとっては非常にありがたいひみつ道具といえそうです。

的が移動されるリスク

コミックにもあったように、誰かが勝手に的を移動してしまうと大変です。それを防止するためには、予め的を置く周辺の人に的の存在をちゃんと伝えておくことが大切です。

風や雨で勝手に場所が移動しないように、たとえば小さなカゴの中に的を入れておき、それを屋外に設置して紐でしばっておけば大丈夫です。とはいえ、的がちゃんと目的地に設置されているかどうかは、はこび矢で飛んでみないとわからないのです。想像していた場所と全く異なる場所に到着するリスクも考えながら使う必要があります。

移動方法が不明

はこび矢を空に向かって放つと、的に向かって空を飛んで自分たちを運んでくれます。ところがコミックの中では矢と体をどうやって繋いでいるか描写されていません。

はこび矢でどうやって移動しているか不明
体への負担は大丈夫だろうか?

ドラえもん13巻「弓やで学校へ」P51:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

例えば上のシーンは、のびたとしずかちゃんがしずかちゃんの家に移動する様子です。のびたの頭から矢がつながっているように見えますが、矢と体を紐で繋るシーンは描かれていないのです。これは想像になりますが、矢が放たれた瞬間に矢の根本から体に対して頑丈な紐が発射され、それが体にクルクルと巻き付いて矢で引っ張っているものと思われます。体重をさえる十分な強度を持ち、縛られた体も痛くない特殊な紐を使っているのでしょう。

しゅん間リターンメダルが基点への瞬間移動に特化しているのに対して、はこび矢は弓矢の発射という物理的な動作を伴う移動手段です。快速シューズが地上を高速で走る道具であるのに対し、はこび矢は空中を移動できる点で使い勝手が異なります。タケコプターのように自由に飛べるわけではありませんが、的が設置されている場所なら確実に到達できるという安心感が魅力です。またオールマイティーパスがあれば交通費なしで各地を移動できるように、はこび矢も日常の移動コストを大幅に削減してくれる道具です。

色違いの的で目的地を管理する

のびたがはこび矢で設置した的は、それぞれ色が異なります。これは複数の的を間違いなく使い分けるための工夫であり、目的地ごとに色を対応させるというシンプルかつ実用的なシステムです。自宅、学校、しずかちゃんの家、空き地という4か所を4色で管理するというのは、視覚的にわかりやすく混乱を防ぐ優れた設計です。的が複数ある状況での誤操作リスクを色分けで解消するという発想は、現代のUI設計にも通じる考え方です。

弓道の発想をひみつ道具に応用した独自性

はこび矢の面白さは、「矢を放って目的地に移動する」という弓道・アーチェリーの発想をそのまま移動手段に転用した点にあります。矢を放つという動作が伴うため、他の飛行系ひみつ道具と比べると少し準備が必要ですが、その分だけ目的地への確実性が高いという特徴があります。タケコプターが飛びながら自分で方向を決めるのに対し、はこび矢は発射前に目的地が決まっているという点で、より計画的な移動方法です。

弓矢という古典的な道具に未来の技術を組み合わせるという発想は、藤子・F・不二雄先生がよく使う「古典×SF」の組み合わせです。桃太郎印のキビダンゴが昔話を道具に変えたように、はこび矢も伝統的な武器の概念をまったく新しい使い方にアレンジしています。

のびたが遅刻しなかった珍しいエピソード

はこび矢が登場するエピソード「弓やで学校へ」は、のびたが学校に遅刻しないという珍しい回です。普段は朝ギリギリまで寝ていて遅刻常習犯ののびたが、はこび矢の的を学校に仕掛けておくことでゆっくり朝ご飯を食べながら余裕で登校できるという設定は、読者にとってカタルシスのあるシーンです。

のびたが道具を正しく・賢く使って生活を改善するという展開は短編の中では比較的珍しく、この点ではこのエピソードはのびたの「できる側面」を見せてくれる貴重な話です。もっとも最後にはジャイアンとスネ夫に奪われてドブ川に落ちるというオチがつくのですが、その展開もまたこのエピソードのテンポの良さを生み出しています。

的の管理という現実的な問題

はこび矢を日常的に使う上でネックになるのが的の管理です。学校や友人の家など公共・他人の場所に的を置くには当然許可が必要ですし、誰かに動かされたり捨てられたりするリスクも常にあります。コミックでも野良犬が的をドブ川に捨ててしまうというトラブルが描かれており、的の管理こそがはこび矢を使いこなす上での最大の課題と言えます。

現代で考えると、的にGPS機能を付けて現在地を把握できるようにすれば管理が楽になります。また的が移動された場合にアラートが鳴る仕組みがあれば、うっかりドブ川に落ちるという事故も防げます。ひみつ道具の機能そのものに加えて、運用面での工夫が求められる道具という点でもはこび矢は面白い存在です。日常のどこでもいける系ひみつ道具の中でも、事前の準備と管理が必要という点ではこび矢はひと手間かかる部類に入りますが、だからこそ使いこなせたときの快適さと充実感は格別です。のびたが毎朝ゆっくり朝ご飯を食べながら余裕で学校に到着できたというシーンは、準備が報われる瞬間の喜びをよく表しています。

このひみつ道具が印象に残る理由

このひみつ道具の面白さは、ただ便利なだけではなく、使った瞬間に日常の見え方が少し変わるところにあります。ドラえもんの道具は、困りごとを一発で解決してくれるように見えて、実際には使う人の性格や判断がそのまま結果に出ます。のび太が使えば楽をしたい気持ちが前に出ますし、ドラえもんが使えば助けるための道具になります。同じ道具でも、誰がどんな目的で使うかによって印象が変わるのです。

また、名前や見た目が身近であるほど、効果とのギャップが強くなります。普通ならありえないことが、手の届きそうな形の道具で実現してしまう。そこに読者が「自分ならどう使うだろう」と想像したくなる余白があります。物語の中での出番が短くても、発想がはっきりしている道具は記憶に残りやすいですね。

日常で使うなら注意したいこと

もし現実にこの道具を使えるなら、まず考えたいのは周囲への影響です。自分にとって便利でも、家族や友達、近くにいる人に迷惑がかかるなら正しい使い方とはいえません。ドラえもんのエピソードでは、最初は小さな願いから始まった使い方が、だんだん大きな騒動に広がることがよくあります。便利さに気を取られるほど、基本的な確認を忘れてしまうのです。

効果の範囲、持続時間、元に戻す方法、失敗した時の対処。これらを分からないまま使うと、どんなに魅力的な道具でも危険になります。ひみつ道具は夢をかなえるアイテムである一方、使う人に責任を求めるアイテムでもあります。そこまで含めて考えると、単なる便利グッズではなく、未来の技術との付き合い方を教えてくれる存在だといえるでしょう。

読者が想像を広げやすい道具

作中で描かれた使い方は、この道具の可能性の一部にすぎません。学校で使ったらどうなるか、家で使ったらどうなるか、旅行や災害時に役立つのか、逆にどんなトラブルが起きるのか。そう考えていくと、短い登場シーンだけでは見えなかった魅力が広がります。

ドラえもんのひみつ道具紹介の楽しさは、性能を確認するだけでなく、その先の使い道を読者自身が想像できるところにあります。この道具も、便利さ、危うさ、ユーモアが同時に詰まっているからこそ、もっと深く考えたくなる一品です。

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