ゴーホーム・オルゴール

ゴーホーム・オルゴールは帰宅衝動を起こす道具。蛍の光で居座る客を動かす

ゴーホーム・オルゴールは、音楽を聞いた相手に帰りたい気持ちを起こさせ、実際に体を帰る方向へ動かしてしまうひみつ道具である。流れる曲は、閉店や終業の合図としてなじみのある蛍の光。日常の合図をそのまま強制力のある道具へ変えているところが面白い。

この道具が登場するのは、のび太の家に迷惑な客が居座る話である。新年のあいさつ回りから逃げてきたパパの会社の社長が、野比家に上がり込む。目上の相手なので、家族は強く追い返しにくい。そこでドラえもんとのび太が、ゴーホーム・オルゴールを使って帰らせようとする。

社長が家にやってきた
気持ちはわかるが、社長がそれでは・・・
ドラえもん11巻いやなお客の帰し方P24:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

帰りたい気持ちを音で作る

ゴーホーム・オルゴールの効果は単なる気分転換ではない。聞いた相手は、帰らなければならないような気持ちになり、体もそちらへ動き始める。音楽による暗示のようでありながら、かなり物理的な強制力を持つ。相手が理屈で抵抗しても、体は玄関へ向かう。

この点では、気分を盛り上げるムードもりあげ楽団よりずっと直接的である。ムードもりあげ楽団は場の雰囲気を変えるが、ゴーホーム・オルゴールは帰宅という一点に向けて相手を動かす。感情だけでなく行動まで決めてしまうため、便利さの反面、使い方には注意が必要である。

社長は、帰りたくない気持ちが強いため必死に抵抗する。上司としての威厳はあまりなく、むしろ逃げ場を求めて部下の家へ居座る大人として描かれている。新年のあいさつが面倒という気持ちはわからなくもないが、部下の家庭に負担をかけている時点でかなり迷惑である。

社長の抵抗が強い

ゴーホーム・オルゴールの音を聞いた社長は、帰らされそうになりながらも、なんとか踏みとどまる。ここでドラえもんは音量を上げる。効果は強くなるが、同時に周囲への影響も広がる。ひみつ道具ではよくあることだが、出力を上げるほど狙い以外の人まで巻き込む危険が増す。

ゴーホーム・オルゴールに抵抗する社長
必死に抵抗を見せる社長
ドラえもん11巻いやなお客の帰し方P26:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

実際、ママまで影響を受けてしまう。ママは自分の実家へ帰ると言い出し、道具の目的から外れた混乱が起きる。帰るという命令は、聞く人それぞれの帰る場所へ向かわせるらしい。野比家にいる人なら全員が同じ方向へ帰るわけではなく、それぞれのホームへ引っぱられる。

この仕様はかなり興味深い。ゴーホーム・オルゴールは、単に外へ追い出す道具ではない。聞いた人の内側にある帰る場所の感覚を呼び起こしている。だからこそ、ママは実家へ帰ろうとする。カエルまで影響を受けている描写から考えると、人間以外にも効く可能性がある。

ゴーホーム・オルゴールの影響範囲
カエルも困っている
ドラえもん11巻いやなお客の帰し方P26:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

使い道はかなり多い

ゴーホーム・オルゴールは、日常で使える場面が多い。店じまいの合図、イベント会場の退場誘導、居座る訪問者への対応、帰りたがらない子どもへの合図など、相手に強い言葉を使わず帰宅を促せる。現代なら、混雑した施設や避難誘導にも応用できそうである。

ただし、便利な使い道ほど倫理的には微妙になる。相手の事情を聞かず、音を流すだけで帰らせるからだ。望まない営業やしつこい勧誘を帰すなら助かるが、話し合いが必要な相手まで追い出してしまう可能性がある。音が届く範囲の人全員に効くなら、無関係な人まで動かしてしまう。

近い道具としては、相手の行動や気分を制御するさいみんグラスや、場面の危険を知らせる災難報知機が思い浮かぶ。ゴーホーム・オルゴールは攻撃的ではないが、相手をその場から排除する力がある。穏やかな音楽で強制するところに独特のこわさがある。

ドラえもんたちが影響を受けない理由

作中では、ドラえもんとのび太が道具の近くにいても、同じように帰らされている様子はない。これは使用者には効きにくいのか、あるいは音の向きや意識の差があるのかもしれない。はっきりした説明はないが、道具を操作する側がすぐ退場してしまっては使えないため、何らかの安全設計があると考えられる。

一方で、ママやカエルには影響が及ぶため、完全に対象を選べる道具ではなさそうだ。音量を上げるほど影響範囲が広がるなら、室内で使うだけでも周囲の家に迷惑が出る可能性がある。蛍の光は穏やかな曲だが、ひみつ道具として鳴ると、かなり強い命令音になる。

この話の面白さは、社長という立場の強い人物を、音楽によってじわじわ帰らせようとするところにある。直接追い出せない相手を、ひみつ道具で間接的に動かす。年始の気まずい人間関係と、蛍の光という身近な曲が組み合わさり、ゴーホーム・オルゴールは日常感の強い道具になっている。

帰る場所があることの強さ

ゴーホーム・オルゴールが効く前提には、その人に帰る場所があるという感覚が必要なのかもしれない。社長には会社や自宅があり、ママには実家があり、カエルには元の水辺がある。音楽が呼び起こすのは、単なる退場ではなく、自分のいるべき場所へ戻る衝動である。

この読み方をすると、道具名のゴーホームにも少し深みが出る。ホームは家だけでなく、安心できる場所、属している場所でもある。社長は新年のあいさつから逃げるため、野比家を仮の避難所にしている。しかし、そこは本来の居場所ではない。だから道具は、社長をその場から引きはがそうとする。

一方で、帰る場所を本人がどう認識しているかによって、効き方が変わる可能性もある。家出中の人、旅行者、帰りたい家がない人に使ったらどうなるのか。道具が最寄りの住所へ向かわせるのか、心の中の居場所へ向かわせるのかは気になるところである。単純な追い出し道具に見えて、ホームの定義があいまいなぶん、想像の余地が大きい。

社長のように立場が上の相手を直接注意するのは難しい。だからドラえもんは、音楽という間接的な手段を使う。ここには、子どもにも大人にもわかる気まずさがある。帰ってほしいのに言えない、でも居座られると困る。ゴーホーム・オルゴールは、その言いにくい本音をひみつ道具の音色に変えた道具である。

蛍の光が選ばれているのも巧い。誰かを追い出す怒鳴り声ではなく、そろそろ終わりですという社会的な合図として機能する曲だからだ。だからこそ、道具の効果が強制的でも、場面にはどこかやわらかい笑いが残る。迷惑な客を帰す話でありながら、音楽と正月の空気が入ることで、日常の困りごとをドラえもんらしい道具の笑いへ変えている。

社長の描かれ方も、この道具の必要性を強めている。普通なら会社の社長は威厳のある立場だが、この話では新年のあいさつを避けるために部下の家へ逃げ込む人物として描かれる。偉い人ほど断りにくいという現実的な困りごとがあり、野比家の側は礼儀を守りながら迷惑を受け続ける。

ゴーホーム・オルゴールは、その上下関係を音でひっくり返す。言葉では逆らいにくい相手でも、曲の効果なら立場に関係なく効く。社長であっても、ママであっても、カエルであっても、聞けば帰る方向へ動かされる。社会的な肩書きより、道具の物理的な効果が上に来るところが、ひみつ道具らしい痛快さである。

ただし、痛快さの裏には乱暴さもある。本人の事情を聞かずに帰らせるため、使い手が間違えれば追い払ってはいけない人まで追い出してしまう。災害時の避難誘導なら助かるが、家族の話し合いや相談の場で使えば、問題を先送りするだけになる。帰らせる力は便利でも、帰らせてよい相手かどうかは別に考えなければならない。

それでも、野比家の状況ではこの道具が最適に近い。社長を怒らせればパパの仕事に影響するかもしれず、ママも強く言いにくい。正面から対立せず、相手に自分から帰る気分を起こさせる方法は、かなり現実的な解決策である。ドラえもんの道具は大げさな未来技術でありながら、こうした小さな家庭の困りごとに刺さるところが強い。

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