ブラックベルト

ブラックベルトは、腰に巻いた本人の意思とは関係なく、触れたものを片っぱしから投げ飛ばしてしまう柔道型のひみつ道具です。のび太を一瞬で強者に変える一方で、止め方を知らないまま使うと味方まで巻き込む危険な自動反撃装置でもあります。

見た目は柔道の黒帯そのものですが、効果はただの身体能力アップにとどまりません。相手の力や重さを読み取り、接触した瞬間に投げ技へ移るため、本人が技を覚えていなくても勝手に体が動きます。似たように装着者の力を底上げする道具にはスーパー手ぶくろガッチリグローブがありますが、ブラックベルトは守るより先に投げるところがかなり乱暴なんですよね。

黒おびのび太で見える強さと危うさ

コミック5巻の黒おびのび太では、柔道に夢中になったジャイアンに投げ飛ばされたのび太が、ドラえもんからブラックベルトを借ります。ここまでは、いつもの仕返し用の道具に見えます。ところが実際に使い始めると、相手を選ばず反応してしまう性質がすぐに表に出ます。

ブラックベルト
投げ技にしては危険すぎる

ドラえもん5巻「黒おびのび太」P153:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

転んだのび太に手を差し伸べたしずかちゃん、注意しようとした先生、噛みつこうとした犬、自動車まで投げ飛ばしてしまう流れは、ブラックベルトの本質をよく示しています。悪者を倒す道具ではなく、触れたものを処理する道具なんです。目的が防衛でも、実際の挙動はほぼ無差別の自動攻撃になっています。

面白いのは、のび太が強くなったのではなく、のび太の体を道具が支配しているように見えるところです。のび太自身は相手を投げるつもりがない場面でも、ブラックベルトが先に判断してしまいます。この感覚は、装着者の意志で殴りかかるけんかてぶくろよりも怖い部分です。自分の判断で止められないぶん、強さがそのまま事故につながります。

触れた瞬間に投げるという異常な性能

ブラックベルトのすごさは、投げる対象の幅にあります。人間だけでなく犬や車にまで反応しているので、単純な柔道補助具ではありません。柔道の形を借りた重力制御、姿勢制御、反射運動の自動化がひとまとめになっているような道具です。

車を投げ飛ばす描写を見ると、使用者の筋力を増幅しているだけでは説明しきれません。のび太の体がその負荷に耐えている以上、体そのものも一時的に保護されているはずです。そうでなければ、投げる前に肩や腰が壊れてしまいます。攻撃道具としての派手さなら空気砲パンチ銃も印象的ですが、ブラックベルトは小さな帯だけで人体を武器化してしまう点が異質です。

ブラックベルト
飛んだ車の先にはいったい何があるのか?

ドラえもん5巻「黒おびのび太」P157:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

ただし、強いから便利とは限りません。ブラックベルトは接触をきっかけに働くため、人の多い場所ではほとんど使えません。学校、商店街、電車、家の中のような狭い空間では、ちょっと肩が当たっただけで大事故になります。敵だけを狙える電光丸と比べると、制御性の差がはっきり出ます。

もう一つ気になるのは、ブラックベルトが投げる相手の危険度を区別していないところです。ジャイアンのように明確な攻撃者が相手なら道具の効果は頼もしく見えますが、しずかちゃんや先生のように害意のない相手まで同じように処理してしまいます。これは防犯装置として考えると致命的です。正当防衛の範囲を軽く飛び越え、ただ接触した相手を危険物扱いしてしまうからです。

ドラえもんの道具には、使う人の気持ちをくみ取るものと、機械的な条件だけで動くものがあります。ブラックベルトは明らかに後者です。相手が助けようとしているのか、止めようとしているのか、偶然ぶつかっただけなのかを見ません。だからこそ、のび太のように周囲へすぐ謝りたくなる性格の人物が使うと、強くなる喜びよりも罪悪感のほうが先に来ます。

のび太向きに見えて、実はのび太に向かない

のび太は運動が苦手で、ジャイアンに力で負けることが多い人物です。その意味ではブラックベルトは、のび太の弱点を一発で補う道具に見えます。けれど、のび太の優しさや気の弱さを考えると、相手を選ばず投げる性能はむしろ相性が悪いんですよね。

のび太は仕返ししたい気持ちで道具を借りても、目の前で誰かが痛い目を見るとすぐに動揺します。ブラックベルトはその迷いを待ってくれません。助けに来たしずかちゃんまで投げてしまう場面は、のび太が望んだ勝利と、道具が実現する勝利がまったく別物であることを見せています。

このズレはドラえもんの道具らしいところです。弱い人を強くする夢のアイテムでありながら、強さだけを手に入れても幸せにはならないとすぐに分かる作りになっています。相手の攻撃を受け流すひらりマントのように被害を減らす方向ならまだ扱いやすいのですが、ブラックベルトは触れた対象を飛ばすため、守るつもりでも周囲に被害を広げます。

この道具が本当に安全に使えるのは、道場のように床が柔らかく、相手も投げられる前提で構えていて、周囲に無関係な人がいない場面ぐらいでしょう。それでも、車を飛ばせるほどの出力があるなら、普通の畳やマットで受け止められる保証はありません。柔道の帯という見た目に反して、実際には競技用の道具ではなく、未来技術で作られた超高出力の自動投げ装置です。

ジャイアンに勝ちたいという目的だけを見ると、ブラックベルトはぴったりです。けれど、ドラえもん作品で面白いのは、目的達成のために取り出した道具が、目的以外の場所で問題を起こすところです。ジャイアンを倒す前に周囲が被害を受けるため、のび太は勝利へ向かうほど追い込まれます。力を手に入れたはずなのに、状況を制御できない。そこにこの話の味があります。

防犯や救助に使える可能性

危険な道具ではありますが、使い道がないわけではありません。広い場所で対象を限定できるなら、重量物をどかす作業や、暴れている相手の制圧には役立ちます。瓦礫を動かす、倒木を取り除く、暴走している機械を遠ざけるといった場面では、人力では不可能な処理を一瞬でこなせそうです。

ただし、その場合でも投げた先の安全確認が欠かせません。ブラックベルトは対象を安全な位置へ移す道具ではなく、投げ飛ばす道具です。力の方向や着地点を細かく調整できないなら、救助のつもりが二次災害になります。防御寄りの道具として見るなら、正面からの攻撃を防ぐ無敵ホコとタテ全自動式のほうが目的を絞りやすいでしょう。

また、スポーツの世界で使うなら完全に反則です。本人の技術ではなく道具が勝手に投げているため、競技としての意味がなくなります。黒帯という名前は段位や実力の象徴ですが、ブラックベルトはその象徴だけを借りて結果を先取りする道具です。努力して黒帯になる過程を飛ばし、黒帯の強さだけを身につける。この横着さが、のび太の願望にぴったり合っています。

もし改良版を作るなら、投げる対象を選ぶスイッチが必要です。攻撃してきた相手だけ、指定した相手だけ、危険物だけという条件を設定できれば、ブラックベルトはかなり扱いやすくなります。逆に言えば、作中のブラックベルトは安全装置を省いた試作品のようにも見えます。だからこそ短編としては面白いのですが、日常で持ち歩くにはあまりにも危なっかしい道具です。強さそのものより、強さを止める仕組みのほうが大事だと分かります。

ブラックベルトの魅力は、黒帯という分かりやすい記号をそのまま未来の超技術に変えているところです。強くなりたいという願望をかなえてくれるのに、強さの扱い方まで教えてくれるわけではありません。のび太が強烈に振り回される姿を見るほど、ドラえもんの道具は便利さと危なさが同じ場所にあると感じますね。

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