眠っている人をそのまま起こして命令を聞かせることができるゆめふうりんは、睡眠中の人間を操るという発想がなんとも独特で、ドラえもんの道具の中でも使い心地が一筋縄ではいかない一品です。
のび太の夢を叶えるために
この道具が初登場するのはコミック2巻のエピソードです。現実世界ではいじめられっ子ののび太が、将来ガキ大将になりたいという夢を持っていて、せめて夜の世界だけでも威張れる存在になれるようにとドラえもんが出した道具です。
ゆめふうりんの音色を聞いて起きた人は、眠っている間どんな命令でも聞くという状態になります。一夜限りのガキ大将が誕生するわけですが、寝ている間は判断力がにぶるため、こちらが期待するほど完璧には動いてくれないのが難点です。相撲大会の景品を持ってこいと命令したはずなのに、ゴミを拾って持ってきてしまうといった具合で、命令の意図が正確には伝わらないことがあります。それでものび太はしばらくガキ大将ごっこを楽しんでいたわけで、ドラえもんが優しい目で見守っている様子がなんとも微笑ましいエピソードです。
ゆめふうりんを使って眠っている人をコントロールするという発想は、ねむらせまくらや睡眠バンドなど眠りに関わる道具と並べると、その中でも特に夜の時間を活用する道具だということがわかります。ねむらせまくらが相手を眠らせる道具だとすれば、ゆめふうりんは逆方向に働く道具ともいえます。眠っている状態を利用して命令を聞かせるという性質上、起きている時には断られるようなことを夜の間だけ叶えてもらえるという、のび太にとっては夢のような使い方ができる道具です。
高機能なゆめふうりん
ゆめふうりんのダイヤルを調整すると、それを聞かせる対象を絞ることができます。コミックではドラえもんが10歳くらいの子だけに聞かせようと設定を変更する場面があり、年齢層での絞り込みができることが明らかになっています。特定の年齢帯だけに響く音域で鳴らすという設計は、ドラえもんの道具にしては珍しく理科的な根拠を感じさせます。
さらに大長編のび太の恐竜では、名前を指定して特定の人物だけに音色を聞かせる場面も登場しており、声認証か個人識別の機能も搭載していることが考えられます。大長編に登場するのは夢風鈴という漢字表記の道具で、コミックのゆめふうりんとは表記が異なります。大長編ではしばしばコミックの道具がバージョンアップして登場することがあるので、夢風鈴はゆめふうりんの上位版という解釈も成り立ちます。
特定の人に聞かせることができる 大長編のび太の恐竜P61:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ゆめたしかめ機や気ままに夢見る機など夢に関わる道具もドラえもんには複数登場しますが、ゆめふうりんはその中でも睡眠中の人間に直接働きかけるという点で独特の立ち位置を持っています。夢の内容を見たり操ったりする道具が多い中、ゆめふうりんは夢の内容ではなく眠っている人の行動そのものを変えてしまうという点で、他の睡眠系道具とは一線を画しています。使う側の意図と実際の結果がかみ合わないことが多く、それがこの道具を使ったエピソードに独特のおかしみをもたらしています。
寝ている人は判断力がにぶる
ゆめふうりんで起こされた人は眠った状態なので、通常時と比べると判断力が著しくにぶっています。簡単な命令や単純作業ならスムーズにこなせますが、少し複雑な内容になると途端に意図と違う行動をとってしまいます。相撲大会の景品というものが何なのかを正確に理解できずにゴミを持ってくるというのは、眠りながら動いている人間の思考がどれほど簡略化されているかをよく示しています。
面白いのは、起こされた人たちが翌朝に自分が夜中に動き回っていたことを一切覚えていないという点です。本人にとっては完全に熟睡した一夜であり、外から見れば夢遊病のように歩き回っている夜です。この両面性が、ゆめふうりんというひみつ道具の奇妙なおかしさを作り出しています。コミックでのび太がこの道具を使ったとき、近所の人たちが眠ったまま動き回る様子をのびのびと楽しんでいる場面は、初期ドラえもんらしいシュールさに満ちています。
のび太が命令できることにも限界があって、相手が眠ったままできる範囲の行動に限られます。布団から出て歩き回ることはできますが、細かい作業や高度な判断が必要なことはほぼ期待できません。のび太のように単純に誰かにお使いを頼みたいとか、夜の時間だけ誰かに従ってもらいたいという用途なら十分機能する道具です。
使いすぎには注意
ゆめふうりんの音色を聞いて集まった人は、自分が夢遊病のように歩き回っていることを全く知りません。本人の脳に音波が作用し、本人の意思と力で体を動かしている仕組みですが、その分睡眠中に知らずに動き続けるリスクがあります。粗い使い方は体調を崩すおそれもあるので、毎晩のように使い続けることは避けたほうがよさそうです。
朝一番に話すほどの内容でもない ドラえもん2巻「ゆめふうりん」P47:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ゆめふうりんを使い続けた場合の最大のデメリットは、翌日に前夜の記憶がない出来事がどんどん積み重なってしまう点です。自分が何をしてきたかまったく記憶のないまま毎夜動き回り、その記憶だけが外に残っていく。ゆめふうりんで動かされた側は、いつしか説明のつかない疲労感や違和感を覚えるようになるかもしれません。使う側も自分の意図通りに相手が動いてくれないもどかしさを抱えながら運用することになり、どちらにとっても手放しで便利とはいえない道具です。
それに気づいたドラえもんが後半でゆめふうりんを使うことをのび太に諌める流れになるのですが、ドラえもんの道具の中でも珍しく、使い始めてから問題が浮き彫りになるタイプの道具といえます。道具を出すときに事前に副作用を説明しないドラえもんの大雑把さでもあるのですが、どこか利用する側への配慮が足りないぞっとした面を持っています。
夢遊ぼうやゆめなげなわなど夢を介して人を動かす道具はドラえもんにいくつか登場しますが、ゆめふうりんはその中でも最もシンプルな発想で、音を鳴らすだけで眠っている人全員に作用するというところが際立っています。使う側が全員に命令しなければならないという点ではコントロールが難しいですが、不特定多数を動かしたい場面では他の道具にはない強さを持っています。コミック初期から登場していることも含め、ドラえもんの道具の歴史においてひとつの原点ともいえる存在です。夜の世界でだけ別の自分になれるという発想が、どこかのび太の境遇と重なって見えるのも、この話が長く印象に残る理由のひとつです。
のび太の夢を叶えるためにを読み直すポイント
のび太の夢を叶えるためには、効果の派手さだけでなく、使われる場面によって印象が大きく変わるひみつ道具です。ドラえもんの道具は、性能を説明するだけなら一言で済むものも多いのですが、実際のエピソードではのび太たちの性格やその場の空気が重なって、単なる便利アイテム以上の面白さが生まれます。のび太の夢を叶えるためにもその一つで、困りごとを解決する力と、使い方を間違えた時の危うさが同時に見えるところに読み応えがあります。
読者目線で考えると、のび太の夢を叶えるためにを自分ならどう使うか想像しやすい点も魅力です。学校や家、友だちとの遊び、ちょっとした失敗の場面など、日常の延長に置いて考えると、便利そうに見える一方で守るべきルールも自然に見えてきます。そこまで含めて読むと、のび太の夢を叶えるためには笑える道具でありながら、未来の技術とどう付き合うかを考えさせてくれる存在でもあります。




