さいなんくんれん機

さいなんくんれん機は、火事や洪水などの災難を幻覚として体験させ、非常時の訓練を行うひみつ道具です。実害は出ないのに本人には本物の災害のように感じられるため、訓練道具としては優秀ですが、使い方を間違えると迷惑なドッキリにもなります。

コミック11巻のさいなんくんれん機では、退屈していたのび太にドラえもんがこっそり災難を仕掛けます。備えのための道具でありながら、ドラえもんが遊び半分で使っているところに、この話の危うい笑いがあります。

退屈しのぎに災難を起こすドラえもん

のび太が退屈だとぼやいていると、ドラえもんはさいなんくんれん機を使います。設定した範囲に災害の幻覚を起こし、本人には火事や洪水が本当に起きたように見せる道具です。

さいなんくんれん機にビックリするのび太
突然の災難には誰しも驚く

ドラえもん11巻「さいなんくんれん機」P76:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

実害がないなら安全に訓練できる、と考えればかなり優秀です。防災訓練で一番難しいのは、本番の恐怖や混乱をどう再現するかです。さいなんくんれん機はそこを幻覚で補います。

ただし、退屈だから使うというドラえもんの動機はかなり雑です。タイムカメラ実感帽のように体験を作る道具は便利ですが、相手の同意なしに使うとただの悪ふざけになります。

範囲指定とランダム災害の怖さ

さいなんくんれん機は、災難を起こす範囲と種類を設定できます。作中では野比家の中を対象にし、ランダムで災難を発生させます。その結果、たまたま訪ねてきたお客さんまで巻き込まれます。

さいなんくんれん機の被害を受けるお客さん
悲劇のお客さんである

ドラえもん11巻「さいなんくんれん機」P78:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

お客さんからすれば、完全に迷惑です。本人には本物の災害に見えているので、慌てて当然です。実害がないとはいえ、恐怖や混乱は本物に近い。訓練として使うなら、事前説明や参加者の同意が必要でしょう。

この道具は、現代でいう防災シミュレーターに近いものがあります。ただ、室内でここまでリアルな災害体験を作れるなら、学校や会社の訓練にはかなり役立ちます。問題は、ドラえもんのように軽い気持ちで使う人がいることです。

幻覚だからこそ本気で動ける

さいなんくんれん機の価値は、被害を出さずに本気の反応を引き出せる点です。避難訓練で火事の想定と言われても、実際には落ち着いてしまう人は多いです。煙や炎が本当に見えれば、体はもっと早く反応します。

本人には本物に見えているため、パニックになる危険もあります。けれども、そのパニックも含めて訓練できるのは大きいです。いざという時、自分が冷静に動けるかどうかは、実際に近い状況を体験しないと分かりません。

似たように危機を疑似体験させる道具として、さいなん報知機や、怖さを演出する怪談ランプを思い出します。ただし、さいなんくんれん機は娯楽ではなく訓練目的がはっきりしているため、社会的な使い道はかなり大きいです。

ドッキリに使えるが乱用は危険

この道具は、ドッキリにも使えてしまいます。対象者に火事、雷、洪水などを見せれば、大きな仕掛けを用意しなくても驚かせられます。実際には被害がないため、仕掛ける側は気軽に感じるかもしれません。

しかし、本人の恐怖は本物です。心臓が弱い人や、過去に災害でつらい経験をした人に使えば、笑い話では済みません。災難を訓練として扱うのか、いたずらとして扱うのかで、この道具の印象は大きく変わります。

ドラえもんがのび太へ使った時も、遊び半分の危うさがあります。のび太を退屈させないためとはいえ、いきなり災難を体験させるのはかなり乱暴です。初期ドラえもんの、少し黒い優しさが出ています。

通報されるほどリアルな幻覚

作中では、お客さんが本物の災害だと思って周囲に助けを求めます。近所の人たちが駆けつけるほどなので、本人の慌てぶりは相当だったのでしょう。

さいなんくんれん機の被害を通報するお客さん
一瞬でこれだけ駆けつけてくれるご近所さんの頼もしさ

ドラえもん11巻「さいなんくんれん機」P78:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

この場面は、ご近所さんの反応の早さも印象的です。実際の災害なら心強いですが、幻覚の訓練で毎回人を巻き込むと、信用を失います。訓練は本気に近いほど効果がありますが、本気に近いほど周囲への配慮も必要になります。

大長編で敵を足止めする道具として使えば、かなり役立ちそうです。幻覚で地震や火事を見せれば、相手は混乱します。けれども、使い方が敵への威嚇に向くほど、本来の防災訓練という目的から離れていきます。

さいなんくんれん機は、未来の防災意識の高さを感じさせる道具です。災害は忘れたころにやってくるから、未来でも訓練は必要なのでしょう。笑いの中に、備えることの大切さが残る。そこがこの道具の一番まじめな部分です。

訓練といたずらの境目

さいなんくんれん機の怖さは、目的によって印象が大きく変わるところです。防災訓練として事前に説明し、参加者が納得して使うなら、かなり有益です。けれども、何も知らない人へ突然使えば、ただの悪質ないたずらになります。

作中のドラえもんは、退屈しているのび太を刺激するために使っています。災害への備えという立派な名目はありますが、実際の使い方はかなり乱暴です。ここに、ドラえもん初期のいたずらっぽい性格が出ています。

本人に実害がないから大丈夫、という考えも危ういです。恐怖や混乱は心に残ります。たとえ幻覚でも、本物だと思って逃げ回ったなら、その人にとってはかなり大きな体験です。訓練には安全だけでなく、納得感も必要なのです。

本番に近いほど扱いが難しい

防災訓練は、本番に近いほど効果があります。煙、炎、水、揺れ、混乱がリアルであるほど、自分がどう動くか分かります。さいなんくんれん機は、その本番らしさを幻覚で作れる点がすごいです。

しかし、本番に近い訓練ほど、周囲の準備が必要になります。避難経路を確保し、参加者の体調を見て、訓練後に説明する。そこまで含めて使えば、未来の学校や会社ではかなり役立つ道具になるでしょう。

のび太の家で起きたように、お客さんまで巻き込むと訓練の意味が崩れます。訓練対象ではない人が恐怖だけを味わい、近所まで騒ぎになる。道具の性能が高いほど、運用する側の責任も重くなるのです。

災害を笑いにする難しさ

この道具は、災害という重い題材をギャグにしています。火事や洪水は本来笑えないものですが、幻覚であり実害がないから、漫画の中では笑いとして読めます。この距離の取り方はかなり繊細です。

お客さんが大慌てする場面は笑えますが、同時に、実際の災害なら誰でもこうなるだろうとも思えます。だから、この話には少し現実的な怖さがあります。自分は冷静に動けると思っていても、突然の災難では体が先に反応してしまうかもしれません。

さいなんくんれん機は、笑いながら防災の必要性を思い出させる道具です。ドラえもんの道具としては地味に見えますが、現実にあれば社会的な価値はかなり高いでしょう。問題は、ドラえもんのような使い方をしないことです。

道具の真面目さと使い方の軽さ

さいなんくんれん機は、目的だけ見ればかなり真面目な道具です。災害に備える、避難の練習をする、いざという時の反応を確かめる。どれも生活に役立つ発想です。

一方で、作中の使い方はかなり軽いです。のび太が退屈しているから、突然災難を見せる。お客さんが来ても巻き込まれてしまう。真面目な道具を軽く使うことで、話全体に不思議な危なさが出ています。

このずれが、さいなんくんれん機の面白さです。未来の技術としては社会に必要そうなのに、ドラえもんとのび太の家ではドッキリ道具に近くなってしまう。道具そのものより、運用する人の意識が結果を決めるという点で、かなり現実的なひみつ道具です。

家の中だけで完結しない点も印象に残ります。幻覚を見ているのは対象者だけでも、その人が叫べば近所が動きます。災難は個人の体験に見えて、すぐ周囲を巻き込むものです。そこまで含めて訓練できるなら価値はありますが、遊びで使うには重すぎます。

だからこそ、さいなんくんれん機は使用前の説明が欠かせません。怖がらせることが目的ではなく、備えることが目的だと共有できて初めて、この道具は本来の力を発揮します。

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