人体とりかえ機

人間の体の一部を交換することができる「人体とりかえ機」の紹介です。頭、胴体、腕、足など、選んだ体のパーツを両者入れ替えることができますが、その結果できあがった姿は、それはそれはこっけいな(不気味な?)形になってしまいました。

みんなのあこがれしずちゃん

一度は頭が良くなりたいというのび太の想いのもと、のび太としずちゃんで頭を交換しました。結果的に頭が良くなることはなく、実験は失敗に終わりますが、ドラえもん・スネ夫・ジャイアンが密かに持っていた願望が次第に明らかになります。

  • ドラえもん→ほっそりした足
  • スネ夫→スラリとした手
  • ジャイアン→スマートな胴体

しずちゃんが帰ってくるまでの間、3人は自分たちの昔からのあこがれを現実のものにすべく、のび太の体(本当はしずちゃんの体)と次々と交換してしまうのです。

ドラえもんがほっそりした足に憧れているという設定がまた面白いです。ネコ型ロボットとして描かれているドラえもんの足は丸くてずんぐりとした形が特徴的で、それをコンプレックスに感じていたとは思いませんでした。スネ夫のスラリとした手への憧れも、いかにもスネ夫らしい美意識を持つ反面、自分の手に自信がないという意外な一面を見せてくれます。ジャイアンがスマートな胴体に憧れているというのも、力強いイメージのジャイアンらしくない願望で、みんなが見えないところで自分の外見にコンプレックスを持っているんだということが伝わってきます。

足が伸びた不気味なドラえもん
ここまで喜ぶドラえもんを、一体だれが止められるだろうか

ドラえもん11巻「からだの部品とりかえっこ」P141:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

最終的に誰が誰のパーツを持っているかわからなくなり、めちゃくちゃな結末を迎えるのでした。

本人が満足ならそれでいい

足を交換したドラえもんと胴体を交換したジャイアンは、周りから見たらまるで化物のような姿をしています。

身軽になったジャイアンのからだ
鏡で自分の姿を見たほうがいいよ、ジャイアン

ドラえもん11巻「からだの部品とりかえっこ」P142:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

それでもドラえもんは、この姿を記念に写真の残しておこうと喜んでいますし、ジャイアンも飛び上がって体ぜんたいで喜びを表現しています。結局コンプレックスは本人にしかわからないことであり、それが解消されて長年の悩みがなくなるのであれば、自分が満足していればそれでいいということがわかります。ほら、世の中にも明らかにおかしな美容整形をしていて、周りが心配していても当の本人はもの凄く気に入っている状況ってありますよね。あれと同じなんだなということが、ドラえもんからも学ぶことができます。

人体とりかえ機が生む哲学的な問い

人体とりかえ機のエピソードで面白いのは、パーツが入れ替わった状態でも各キャラクターが意外なほど満足しているという点です。客観的には奇妙な姿になっているのに、当事者は長年のコンプレックスが解消されて喜んでいる。周りがどう見るかより、自分がどう感じるかが大切だという価値観がさりげなく描かれています。

これは現代の美容や整形外科に対する考え方にも通じます。他者から見て「変だ」と感じる整形をしている人でも、本人が満足しているなら他者がとやかく言う必要はないという考え方は、今では広く受け入れられてきています。ドラえもんがこうしたテーマを1970年代に既に描いていたというのは、改めて藤子F不二雄先生の先見性を感じさせます。人体とりかえ機というぶっ飛んだ設定を通じて、外見へのコンプレックスや他者の目線という普遍的なテーマを扱っているのが、このエピソードの深みです。

了承なしにやるのはさすがにダメ

しずちゃんは、まさか自分の体がこんなふうに次々と交換されているとは夢にも思っていません。めちゃくちゃになった結末に驚くばかりのしずちゃんからすると、自分の体がもてあそばれていたようなショックを受けたはずです。

自分の体が遊ばれてショックを受けるしずちゃん
さすがにやりすぎたのび太

ドラえもん11巻「からだの部品とりかえっこ」P143:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

パーツを交換するのであればお互いの承認が必要ですし、子どもがやったこととはいえ、今回はちょっとやりすぎた感があります。

医療現場でも役に立つ

もし「人体とりかえ機」が実現されると、美容整形よりも病院などで使われるかもしれません。ボタンを押せばパーツが完全に入れ替わるので、今後改良を加えて選択できるパーツが増えると、臓器交換にも役立つでしょう。しかも交換したパーツは拒否反応が出ることなく自然に同化しますので、本来は無理なはずの交換手術でも無理なく実施できます。

現実の医療では、臓器移植は提供者と受容者の間で免疫学的な適合性を確認し、移植後も免疫抑制剤を使い続ける必要があります。人体とりかえ機がそうした制約を一切無視して機能するとすれば、移植医療の世界を根本から変える道具になり得ます。もちろんドラえもんの世界ではそのあたりの詳細は描かれていませんが、未来の医療技術がベースにあると考えればある程度説得力のある道具です。こうした道具を考えることで、現代医学への理解が深まるのもドラえもんを楽しむ醍醐味のひとつです。

人体とりかえ機というひみつ道具は、外見を変えたいという人間の普遍的な欲求に対して、思い切ったSFの答えを提供しています。現実では整形外科が外見を変える手段として存在しますが、人体とりかえ機は整形よりもはるかに直接的に体のパーツを交換します。面白いのは、交換したパーツが自然に同化するという設定です。現実の移植医療では免疫拒絶反応が大きな問題ですが、人体とりかえ機はそれを完全に無視した理想的な状態を実現しています。未来の技術でこれが可能になれば、移植医療の分野に革命をもたらすでしょう。

似た発想の道具としてつけかえ手ぶくろがあります。手や足や目などの体のパーツを自由に付け替えられる道具で、のび太が後頭部に目を付けたり膝に目を付けたりとカオスな使い方をしました。人体とりかえ機が二人の間でパーツを入れ替えるのに対し、つけかえ手ぶくろは一人の体内でパーツを移動させる点が異なります。

取り消しゴムと目鼻ペンは顔のパーツを消しゴムで消して、目鼻ペンで好きな顔を描き込む道具です。体のパーツを変えるという発想は人体とりかえ機と共通しており、ドラえもんが絵心がなくてのび太をマンガのような顔にしてしまうというコミカルなエピソードがあります。

入れかえロープはロープの両端を2人で持つと人格が入れ替わってしまう道具です。体のパーツではなく人格そのものが入れ替わるという点で、人体とりかえ機よりもさらに根本的な交換が起こります。のび太がジャイアンに勝つために使いましたが、使いすぎて大混乱を招きました。

このひみつ道具が印象に残る理由

このひみつ道具の面白さは、ただ便利なだけではなく、使った瞬間に日常の見え方が少し変わるところにあります。ドラえもんの道具は、困りごとを一発で解決してくれるように見えて、実際には使う人の性格や判断がそのまま結果に出ます。のび太が使えば楽をしたい気持ちが前に出ますし、ドラえもんが使えば助けるための道具になります。同じ道具でも、誰がどんな目的で使うかによって印象が変わるのです。

また、名前や見た目が身近であるほど、効果とのギャップが強くなります。普通ならありえないことが、手の届きそうな形の道具で実現してしまう。そこに読者が「自分ならどう使うだろう」と想像したくなる余白があります。物語の中での出番が短くても、発想がはっきりしている道具は記憶に残りやすいですね。

日常で使うなら注意したいこと

もし現実にこの道具を使えるなら、まず考えたいのは周囲への影響です。自分にとって便利でも、家族や友達、近くにいる人に迷惑がかかるなら正しい使い方とはいえません。ドラえもんのエピソードでは、最初は小さな願いから始まった使い方が、だんだん大きな騒動に広がることがよくあります。便利さに気を取られるほど、基本的な確認を忘れてしまうのです。

効果の範囲、持続時間、元に戻す方法、失敗した時の対処。これらを分からないまま使うと、どんなに魅力的な道具でも危険になります。ひみつ道具は夢をかなえるアイテムである一方、使う人に責任を求めるアイテムでもあります。そこまで含めて考えると、単なる便利グッズではなく、未来の技術との付き合い方を教えてくれる存在だといえるでしょう。

読者が想像を広げやすい道具

作中で描かれた使い方は、この道具の可能性の一部にすぎません。学校で使ったらどうなるか、家で使ったらどうなるか、旅行や災害時に役立つのか、逆にどんなトラブルが起きるのか。そう考えていくと、短い登場シーンだけでは見えなかった魅力が広がります。

ドラえもんのひみつ道具紹介の楽しさは、性能を確認するだけでなく、その先の使い道を読者自身が想像できるところにあります。この道具も、便利さ、危うさ、ユーモアが同時に詰まっているからこそ、もっと深く考えたくなる一品です。

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