あいあいパラソル

あいあいパラソルは恋愛を操作する傘。のび太とドラえもんの作戦が空回りする

あいあいパラソルは、二人で一定時間いっしょに入ると、相手を好きにさせるひみつ道具である。名前だけ見るとかわいらしい恋愛道具に思えるが、実際にはかなり危ない。本人の気持ちを自然に育てるのではなく、道具の効果で好意を発生させるからである。

作中では、転校生の矢部小路、通称コーシャクが登場する。家がお金持ちで、見た目もよく、勉強もスポーツもできる。しずかちゃんが彼の家へよく遊びに行くようになり、のび太は強い対抗心を燃やす。そこでドラえもんが出してくるのが、あいあいパラソルである。

あいあいパラソルの使い方を説明するドラえもん
ドラえもんの目つきに注目
ドラえもん12巻あいあいパラソルP113:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

五分間で気持ちを変える傘

あいあいパラソルの条件は、二人で傘に入り、五分間いっしょにいること。すると、片方または相手側に強い好意が生まれる。細かい効き方にはあいまいさが残るが、少なくとも自然な会話や信頼関係を積み重ねる必要はない。時間条件を満たせば、恋愛感情が道具によって作られてしまう。

この仕組みは、キューピッドの矢のような恋愛系の道具に近い。ただし、あいあいパラソルは見た目が日用品で、使い方も目立ちにくい。相手に説明せず、偶然のように同じ傘へ入ればよい。そこが便利であるほど、同意のない操作としての問題も大きくなる。

ドラえもんは、のび太の恋を助けるつもりで道具を出している。しかし、やっていることはかなりずるい。しずかちゃんの気持ちを理解しようとするのではなく、道具で気持ちを変えようとしているからだ。のび太の焦りはわかるが、恋愛の近道としては危険な発想である。

ライバルのコーシャク

コーシャクは、のび太にとってかなり分が悪い相手である。家が立派で、頭がよく、運動もできる。しずかちゃんが遊びに行く理由も自然に見える。のび太が焦るのは、相手が単なる嫌なやつではなく、実際に魅力のある人物として描かれているからである。

しずかちゃんと仲がいいコーシャク
顔が見えないのがおしい
ドラえもん12巻あいあいパラソルP111:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

面白いのは、コーシャクがこの話以降ほとんど姿を見せないことだ。後のしずかちゃん周辺の強力なライバルは出木杉が定着するため、コーシャクは一時的な脅威として置かれた人物に見える。裕福で万能な転校生という役割は、のび太の劣等感を刺激するには十分である。

のび太は努力でコーシャクに勝とうとするより、道具でしずかちゃんの気持ちを動かそうとする。この弱さこそが、のび太らしさでもある。真正面から勝負できないから、ひみつ道具に頼る。けれども、恋愛の問題を道具で解決しようとした時点で、話はどんどんおかしな方向へ進む。

作戦は思いどおりに進まない

ドラえもんとのび太は、しずかちゃんをあいあいパラソルの下へ入れようとする。しかし、ひみつ道具の話では、計画が単純なほどよく外れる。ドラえもんは見知らぬおじさんから好かれる羽目になり、のび太はジャイアンに追いかけられる。恋をかなえるはずの傘が、むしろ面倒な人間関係を作ってしまう。

この失敗は偶然のギャグであると同時に、道具の危うさを見せる役割も持つ。誰かを好きにさせる力があるなら、狙いとは別の相手に効いた時の被害も大きい。好意はうれしいものとは限らない。相手や状況によっては、追いかけられるだけで困る。ドラえもんが巻き込まれる場面は、そのことをかなりわかりやすく示している。

似たように相手の認識や感情をずらす道具として、ギシンアンキさいみんグラスもある。どれも使い方を誤ると、人間関係を深めるどころか壊してしまう。あいあいパラソルは恋愛向けに見えるぶん、軽く扱われがちだが、実際には心を操作する道具の一種である。

あいあいパラソルを作戦立てて使うドラえもん
時には頭も使おう
ドラえもん12巻あいあいパラソルP115:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

ドラえもんの作戦性

ドラえもんはただ道具を渡すだけでなく、傘を木に隠し、その下で自然に話し続ける作戦を考える。力押しではなく、状況を作って条件を満たそうとするところに、ドラえもんの悪知恵が出ている。のび太のためとはいえ、かなり手の込んだ恋愛操作である。

この作戦性があるからこそ、あいあいパラソルは単なる便利な傘では終わらない。どこに置くか、誰を下に入れるか、五分間どうやって留めるか。道具の効果よりも、使う側の段取りが話を動かす。のび太の失敗は、道具の性能不足ではなく、現実の人間が思いどおりに配置できないことから起きている。

恋愛は本来、相手の気持ちがあるから難しい。しずかちゃんが誰と遊ぶか、誰に好感を持つかは、のび太だけで決められない。あいあいパラソルはその難しさを一気に飛ばそうとするが、話の中ではうまくいかない。道具で近道をしようとした分だけ、別の方向へしっぺ返しが来る。

あいあいパラソルは、かわいい名前に反して、恋愛感情を外から操作するかなり強い道具である。のび太の嫉妬、ドラえもんの過剰な協力、コーシャクという一時的なライバルが重なり、笑いながらも少し危ない話になっている。好きになってほしいという願いは自然でも、相手の心を道具で変える発想は、やはり軽く扱えない。

効果が続く時間も気になる

あいあいパラソルで生まれた好意が、どのくらい続くのかははっきりしない。一時的な熱に近いのか、長く残る感情なのかで、道具の危険度はかなり変わる。短時間で消えるなら迷惑な混乱で済むこともあるが、長く続くなら相手の人生に影響する。恋愛系のひみつ道具は、効果時間の説明があいまいなほど怖くなる。

また、好意が作られたあと、本人はその気持ちを自分の自然な感情だと思うのかもしれない。もしそうなら、道具を使われた側は操作されたことにも気づきにくい。これは、相手をだます道具としてかなり強力である。のび太がしずかちゃんに使おうとしていることも、子どもの恋の失敗として笑える範囲に見えるが、構造だけ見ればかなり一方的である。

ドラえもんがこの道具を軽く出してしまう点も、少し危うい。のび太の恋を応援したい気持ちはわかるが、心を動かす道具は、さいみんグラスと同じくらい慎重に扱うべきである。正面から話す勇気や、相手を思いやる態度を育てず、効き目だけで解決しようとすると、のび太は何も学ばない。

それでも、この話が暗くならないのは、計画がうまくいかないからである。ドラえもんはおじさんに好かれ、のび太はジャイアンに追われる。道具の危険な力が、狙いどおりに発揮される前にギャグへ変わる。あいあいパラソルは、恋愛の近道を求める気持ちと、その近道が生む気まずさを、短い話の中でよく見せている。

この道具は、のび太の弱さをかなり正直に映している。しずかちゃんに好かれたいのに、自分を磨く方向へはなかなか進まない。コーシャクに負けたくないのに、勉強や運動で追いつこうとはしない。そこで、相手の心を変える道具へ頼る。読者は笑いながらも、のび太が本当に向き合うべき相手はコーシャクではなく、自分の不安なのだとわかる。

コーシャクの存在も、あいあいパラソルの危うさを引き立てている。しずかちゃんが誰かと仲よくするだけで、のび太は自分の居場所を取られたように感じる。しかし、しずかちゃんはのび太の持ち物ではない。誰と遊ぶかは本人の自由である。その自由を傘で変えようとするから、のび太の恋は幼さを残したままになる。

もしあいあいパラソルが本当に成功していたとしても、のび太は安心できただろうか。道具の効果で好かれていると知れば、相手の気持ちを信じられなくなる可能性がある。自然に好かれたのか、傘のせいなのか、その区別がつかない。恋愛を簡単にする道具は、同時に恋愛への信頼を壊す道具にもなる。

だから、この話の失敗はのび太にとって必要な失敗でもある。しずかちゃんの気持ちは、道具で奪うものではない。五分間同じ傘に入るより、普段の行動を少しずつ変えるほうが遠回りでも健全である。あいあいパラソルは、恋愛の便利道具でありながら、便利さに頼るほど大切なものを見失うことを教えている。

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