オトコンナ

70年代あたりは「男らしさ」「女らしさ」という考え方が今よりもっと根強く残っていて、男は勇ましく、女はおしとやかにというイメージが世間に定着していました。今回はそのイメージをひっくり返すひみつ道具「オトコンナ」の紹介です。

オトコンナとは?

瓶に入ったスプレー状に照射するガスです。これを吸うと男は女らしく、女は男らしくなります。吸った男の子たちはいっせいに女言葉になり、お人形遊びなどをたしなみ、女の子たちは急に乱暴な言葉遣いになってサッカーなどに興じたりします。ちなみに吸った際の効果持続時間などは不明です。アニメ版では、もう一度吹きかけると元に戻ったり、効果を中和するキャンディもあります。

オトコンナという道具の名前は、男と女を組み合わせた造語ですが、その発想はシンプルながら効果の描写がユニークです。単に話し方や趣味が変わるだけでなく、一人称が変わるという点がコミックの中でよく描かれています。男の子たちが「わたし」や「あたし」に変わり、女の子たちが「ぼく」や「おれ」に変わるという表現が、70年代当時の性別イメージを色濃く反映しています。現在の価値観で読むと違和感を覚える部分もありますが、それが逆に時代の記録として読める側面もあります。

コミックでの使われ方

自作の最新あやとりをパパとぶつかったことで壊されてしまい、文句を言うのび太くんでしたが、パパからは「もっと男らしい遊びをしなさい」と逆に説教されてしまいます。「男らしさって何だ?あやとりだって男の子がみんなでやれば男らしい遊びになるだろ!」と珍しくまともな怒りを見せるのび太。「じゃあためしてみよう」とドラえもんが出したひみつ道具がオトコンナでした。ドラえもんがオトコンナを撒くと、それまでサッカーをしていた男の子たちが急に女言葉(おネエっぽいですが)になり、ナヨナヨし始めたのです。

キャラの変化っぷりがすごい

「オトコンナ」の見所は、なんといってもそのキャラの変化っぷりです。特に、ジャイアンは女らしくなっただけでなく、泣き虫で大人しい女の子になって最高にシュールな光景です。

乙女のジャイアン
違和感がすごい一コマ

ドラえもん8巻「オトコンナを飲めば?」P147:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

ジャイ子みたいになるかと想像しましたが、そうでもないんですね。今見るとただ単に男女の「らしさ」が反転するのではなく、心の中にある「自分が理想とする異性像」が反映されてしまっているようにも見えます。特に後から出てくるしずちゃんを始めとした女の子たちは、一人称が「ぼく」であったり、みんなで熱くサッカーに興じたりと、どことなく女の子が理想とする男の子像が反映されている感じがします。

オトコンナが映す性別観の変化

オトコンナのエピソードを読んで面白いのは、男の子が女らしくなった後の行動が「お人形遊び」で、女の子が男らしくなった後の行動が「サッカー」という設定です。これは1970年代における性別と遊びのステレオタイプをそのまま映しています。現代では男の子がお人形遊びをしても、女の子がサッカーをしても、特に珍しくありません。そのギャップが時代の変化を実感させてくれます。

もし現代にオトコンナというひみつ道具が登場したとしたら、その効果はどう描かれるでしょうか。男は女らしく、女は男らしくという基準そのものが多様化している現代では、オトコンナの効果の描写もずっと複雑になるはずです。それぞれの人が持つ「理想の性別像」が違うため、同じ道具を使っても人によって変化の方向が異なるという設定になるかもしれません。オトコンナは時代の空気を鮮明に記録したひみつ道具として、今読むと歴史的な資料としての価値もあります。

女の子になってもダメなのび太

のび太はジャイアンたちが女性になったのをいい事に、皆をあやとりに誘おうとしますが、「男の子みたいな喋り方してていやね」と敬遠されてしまいます。

男になった女
男でも女でもメソメソするのび太

ドラえもん8巻「オトコンナを飲めば?」P149:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

オトコンナの影響でのび太も一応は女の子になっているはずなのですが、どうにも男言葉が抜けないようで、ジャイアンたちには受け入れられなかったようです。サッカーボールが顔面にぶつかって泣き出すのび太に対し、男になったしずちゃん達からは「男の子ってすぐめそめそするから嫌いさ」とこれまた敬遠され、性別が入れ替わってもどちらからもダメっぷりを発揮するのび太なのでした。

当時の世相を反映した話

この話が登場したのは1970年代のことですが、当時はまだ男=仕事、女=家庭というイメージが主流の時代でした。今でこそ共働きや男女平等の考え方が支持されていますが、オトコンナはそんな昔の時代に関連した道具だったのですね。

1970年代を知らない世代がこのエピソードを読むと、パパの「もっと男らしい遊びをしなさい」という言葉への違和感が今と昔のギャップとして刻まれるでしょう。あやとりをしていた子どもが男らしくないと叱られる時代背景が、ドラえもんの世界観を通じて自然に伝わってくるのが面白いところです。当時の常識への小さな反論として、のび太が男の子がみんなでやれば男らしい遊びになると言い返す場面は、今読むとずっと時代を先取りした発言に見えます。藤子F不二雄先生は子どものなにげない疑問を通じて、社会の矛盾を丁寧に描き続けた作家でした。

性質の変化という点ではアベコンベも面白い対比があります。触れたものをすべてあべこべにしてしまう道具で、オトコンナが男女の「らしさ」を逆転させるのに対し、アベコンベはあらゆる性質を逆転させます。どちらも「逆転」をテーマにしたひみつ道具です。

人格が入れ替わるという観点では入れかえロープと比較するのが面白いです。入れかえロープはロープの両端を持つことで人格が入れ替わりますが、容姿は変わりません。オトコンナは容姿ではなく性質が変わるという点で、異なるアプローチで「入れ替わり」を実現しています。

トッカエバーは棒状の道具で精神を入れ替えることができ、入れかえロープと同様の効果を持ちます。オトコンナが「らしさ」を変えるのに対し、トッカエバーは精神そのものを移してしまうという点で根本的な違いがあります。

また進化退化放射線源は対象を進化または退化させる道具で、パパを進化させると宇宙人のような姿になってしまいました。オトコンナのように「らしさ」を変えるのではなく、生物学的な変化をもたらす点で方向性が異なります。

オトコンナを読み直すポイント

オトコンナは、効果の派手さだけでなく、使われる場面によって印象が大きく変わるひみつ道具です。ドラえもんの道具は、性能を説明するだけなら一言で済むものも多いのですが、実際のエピソードではのび太たちの性格やその場の空気が重なって、単なる便利アイテム以上の面白さが生まれます。オトコンナもその一つで、困りごとを解決する力と、使い方を間違えた時の危うさが同時に見えるところに読み応えがあります。

読者目線で考えると、オトコンナを自分ならどう使うか想像しやすい点も魅力です。学校や家、友だちとの遊び、ちょっとした失敗の場面など、日常の延長に置いて考えると、便利そうに見える一方で守るべきルールも自然に見えてきます。そこまで含めて読むと、オトコンナは笑える道具でありながら、未来の技術とどう付き合うかを考えさせてくれる存在でもあります。

特にオトコンナの場合、効果が分かりやすいぶん、使う人の判断が結果に直結します。1839の記事として読み返すなら、道具そのものの能力だけでなく、誰が、何のために、どのタイミングで使ったのかに注目すると、エピソードの印象がより立体的になります。

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