おしかけ電話は、通話するだけで相手側の場所へ自分の体ごと移動してしまう、糸電話型のテレポート道具です。電話なのに会話より訪問が先に来るところが、ドラえもん初期らしい大胆な発想です。
もしもしで相手の場所へ飛ぶ電話
おしかけ電話は、紙コップを糸でつないだ糸電話のような形をしています。片方のコップを相手の家などに設置しておき、もう片方から声をかけると、使用者の体が相手側へ瞬間移動します。電話の役割を、遠くの相手と話すことから、遠くの相手のところへ行くことへずらした道具です。
登場するのはコミック5巻のおしかけ電話です。のび太は長電話をパパに注意され、ドラえもんからこの道具を借ります。通話相手と話すための道具なのに、結果として相手の部屋へ押しかけることになるため、便利さと迷惑さが最初から同じくらいあります。
男で長電話というのも珍しい ドラえもん5巻 おしかけ電話 P169:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
移動系の道具として考えると、どこでもドアに比べてかなり制約があります。あらかじめ相手側にコップを置く必要があり、行き先も設置済みの場所に限られます。そのかわり、電話という日常的な行為に移動を混ぜることで、独特のいたずらっぽさが生まれています。
この制約は不便である一方、物語としてはよくできています。どこでも自由に行けるわけではなく、事前に仕掛けた場所へしか行けないから、友達の家を順番に巡るいたずらとして成立します。道具の性能を少し限定することで、話の流れが見えやすくなっているんですよね。
スネ夫のホットケーキへ直行
のび太は、おしかけ電話の片方を友達の家に設置してもらい、試しに使っていきます。スネ夫の家に飛ぶと、目の前にはおやつのホットケーキがあります。電話をかける感覚で友達の家へ行き、おやつにありつく。この場面だけ見ると、のび太にとっては夢のような道具です。
おいしそうなホットケーキである ドラえもん5巻 おしかけ電話 P171:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ただ、これは現代感覚で見るとなかなか怖い道具です。家に上がる許可を取る前に、本人が部屋へ来てしまいます。おしかけ電話という名前の通り、相手の都合をかなり無視しています。ドラえもんの初期作品にある、生活の境界線を軽々と越える感じがよく出ています。
コミュニケーション系の道具として見れば、手ぶくろ電話や通心器とはかなり違います。手ぶくろ電話は離れた相手と話す方向、通心器は気持ちを伝える方向に寄っています。おしかけ電話は、伝える前に会いに行ってしまう。電話の道具でありながら、実質は移動道具なんですよね。
しずかちゃんとジャイアンの場面が強烈
のび太は調子に乗って、しずかちゃんの家にもおしかけます。物音に気づいたしずかちゃんは怖くなり、警察に電話しようとしますが、もしもしと言った瞬間におしかけ電話に吸い込まれてしまいます。のび太が悪気なく使っているぶん、余計に危なっかしい場面です。
さらにドラえもんが飛んだ先では、ジャイアンがままごとに興じているところを目撃してしまいます。普段の乱暴なイメージとはまるで違う趣味が明らかになる、かなり珍しい描写です。ジャイアンは口封じのため、ドラえもんにどら焼きを渡します。
衝撃の事実!大スクープだ! ドラえもん5巻 おしかけ電話 P172:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄
ジャイアンのままごと趣味は、この後の定番設定として大きく広がるわけではありません。それでも、この一話だけで強い印象を残します。おしかけ電話は相手のプライベート空間へ突然入り込むため、相手が見られたくない瞬間まで暴いてしまう道具でもあります。
ジャイアンが口封じにどら焼きを渡すところも、普段の力関係が一瞬だけ逆転していて面白いです。いつもならドラえもんやのび太を追い回す側のジャイアンが、自分の秘密を守るために低姿勢になります。おしかけ電話は移動道具であると同時に、相手の隠れた一面を不用意に引き出す装置にもなっています。
プライバシーをのぞく道具としては、こっそりカメラやモニターめがねのようなものもあります。しかし、おしかけ電話は見るだけではありません。使用者本人がそこに現れます。この差は大きく、相手側からすれば侵入に近い怖さがあります。
どこでもドアでは出せない味
行き先へ移動するだけなら、どこでもドアで十分です。それでもおしかけ電話には、どこでもドアとは別の味があります。電話をかけるという行為の延長に訪問があるため、相手に会いたい気持ちと、相手の都合を考えない押しかけ感が同時に出るのです。
同じ移動系でも、取り寄せバッグは物をこちらへ引き寄せます。おしかけ電話は自分が相手側へ行きます。方向が逆になるだけで、道具の印象はかなり変わります。相手の家に行くという身体感覚が残るため、いたずらにも秘密の発見にも使いやすい構造です。
相手の場所へ自分が出向くという点では、のび太の欲望がかなりそのまま出ます。おやつを食べたい、しずかちゃんに会いたい、友達の様子をのぞきたい。電話をするという口実があるぶん、本人の中では押しかけている意識が薄いのかもしれません。そこが、この道具のやっかいなところです。
さらに、糸電話という古い遊び道具をベースにしているのもいいところです。紙コップと糸という素朴な形に、瞬間移動というとんでもない機能が入っている。この落差が、ひみつ道具らしい楽しさにつながっています。
糸が伸びる範囲で町内のあちこちにつながるという描写も、今読むと妙に楽しい部分です。デジタルな通信網ではなく、物理的な糸が道筋として存在している。だから、電話でありながら通路のようにも見えます。通信と移動を同じ線でつなぐ発想が、紙コップの見た目とよく合っています。
会いに行く前に相手の都合を考える道具
おしかけ電話は、今の感覚で見ると危ない面がかなりあります。予告もなく相手の部屋へ現れるのは、友達同士でも迷惑になりかねません。しずかちゃんが怖がるのも当然です。
それでも、相手の声を聞きたい、顔を見たい、同じ場所に行きたいという欲求を一気にかなえる発想は魅力的です。電話の先にいる相手が、ただの声ではなく、その人がいる場所ごと想像されている。そこに藤子作品らしい生活感があります。
便利すぎる通信手段は、距離を縮める一方で、相手の領域に踏み込みすぎる危うさも持ちます。おしかけ電話は、その楽しさと怖さを紙コップひとつで見せてしまう、初期ドラえもんらしい勢いのある道具です。





