コンピューターペンシル

コンピューターペンシルは、持つだけで内蔵コンピューターが問題を読み取り、答案を自動で書いてくれる夢のような鉛筆です。勉強が苦手なのび太にとっては一生に一度の百点を狙える道具ですが、頼りすぎると本人の実力がまったく育たない危険な道具でもあります。

初期ドラえもんらしい、分かりやすく欲望に直結した道具です。テストで百点を取りたい、でも勉強はしたくない。そんな願いに対して、未来の技術がほぼ反則の形で答えてしまいます。似た勉強系の道具には勉強の道具もありますが、コンピューターペンシルは学ばせるのではなく答えを書いてしまうところが決定的に違います。

一生に一度は百点を狙う道具

コミック1巻の一生に一度は百点を…では、のび太がテストで百点を取りたいという願いを抱きます。そこで登場するのがコンピューターペンシルです。見た目はいかにも機械仕掛けの鉛筆で、普通の文房具とは明らかに違います。

使い方は単純です。鉛筆を持つと、内蔵コンピューターが問題を分析し、答えを自動で書いてくれます。本人が考える必要はありません。極端に言えば、寝ていても答案が完成します。テスト用の道具としてはあまりにも強力です。

ただし、この便利さはすぐに危うさへつながります。のび太が普段取らないような点数を突然取れば、周囲は当然不自然に思います。本人の実力と結果の差が大きいほど、道具の存在は目立ちます。カンニング道具としては優秀でも、使う人の状況までは隠してくれません。

ジャイアンの偽物作りが意外とうまい

コンピューターペンシルの話で見逃せないのが、ジャイアンの手先の器用さです。のび太からこっそり道具を奪ったジャイアンは、普通の鉛筆に手を加えて偽物を作ります。のび太が一目で見抜けないほど精巧な作りです。

ひみつ道具のコンピューターペンシル
精巧にできた偽物をつかまされた

ドラえもん1巻「一生に一度は百点を…」P138:小学館てんとう虫コミックス藤子F不二雄

ジャイアンは乱暴なイメージが強いですが、工作や小細工が妙にうまい場面があります。ここでも、ただ奪うだけではなく偽物を残してごまかそうとするあたり、意外と計画的です。コンピューターペンシルの話は、のび太のズルだけでなく、ジャイアンの器用さも見える回なんですよね。

この偽物の存在によって、道具の見た目が重要だったことも分かります。もし外観が普通の鉛筆なら、偽物を作る必要はありません。機械っぽい見た目だからこそ、ジャイアンはそれらしい外装を再現しようとしたのでしょう。

答えを書くことと学ぶことは違う

コンピューターペンシルは、テストの点数だけを目的にするなら最強です。入試、資格試験、難しい計算問題、語学のテスト。問題を読み取って答えを書けるなら、どれも突破できる可能性があります。

けれど、答えが書けることと、本人が理解していることはまったく別です。ペンシルで百点を取っても、授業で説明を求められたら困ります。資格試験に合格しても、現場で知識を使えなければ意味がありません。ここがコンピューターペンシルの最大の弱点です。

勉強を助ける道具として見るなら、問題を解く過程を教えてくれるほうが価値があります。たとえば間違えた理由を説明したり、次に似た問題を出したりする機能があれば、学習道具になります。けれど作中のコンピューターペンシルは、結果だけを先にくれる道具です。のび太が本当に成長する余地は少ないです。

試験制度を壊してしまう力

もし現実にコンピューターペンシルが広まったら、試験制度そのものが成立しなくなります。筆記用具にコンピューターが入っているなら、試験官はすべての鉛筆を検査しなければなりません。見た目が普通の鉛筆に偽装されたら、発見はさらに難しくなります。

入試で使えば学校の選抜が意味を失い、資格試験で使えば専門職の信頼が崩れます。司法試験や医師国家試験のようなものに使われたら、合格者の実力を確認できません。コンピューターペンシルは小さな道具ですが、社会の仕組みをかなり揺さぶる力を持っています。

同じ知識系の道具でも、未来の大百科事典未来のカタログは情報を調べる道具です。コンピューターペンシルは、調べる過程すら飛ばして答案にしてしまいます。便利さの段階が一つ進んでいるぶん、ズルさも強くなっています。

答えを出す範囲はどこまでか

気になるのは、コンピューターペンシルがどんな種類の問題まで解けるのかです。計算問題や漢字の書き取りなら分かりやすいですが、作文や論文、感想文のようなものにも対応できるのでしょうか。作中では学校のテストが中心なので、限界ははっきりしません。

もし自由記述にも対応できるなら、かなり高度な思考能力を持っています。採点者が納得する文章をその場で作る必要があるからです。さらに未解決の数学問題や事件の真相まで答えられるなら、ただのテスト補助を超えた万能解析道具になります。

ただ、そこまで行くと未来のコンピューターがどこまで知っているのかという問題になります。タイムマシンで未来の情報を参照できるのか、現在の情報だけから推論するのか。コンピューターペンシルは小さな鉛筆ですが、突き詰めるとかなり大きな疑問を含んでいます。

のび太に百点を取らせる意味

この道具の魅力は、のび太に百点を取らせるという分かりやすい夢にあります。普段は0点のイメージが強いのび太が、たった一度でも満点を取る。そこにはズルさがあっても、どこか切実な願いがあります。

けれど、道具で取った百点は長く残る自信にはなりにくいです。自分で考えて解いたわけではないからです。のび太に本当に必要なのは、答えそのものより、できたという実感かもしれません。コンピューターペンシルはその実感をくれるようで、実は少し遠ざけてしまいます。

だからこそ、この道具は初期ドラえもんらしい魅力があります。欲しい結果をすぐにくれるけれど、その結果だけでは人は変わらない。テストの答案を自動で埋める鉛筆は夢の道具ですが、のび太の成長を考えると、少し苦い道具でもあります。

もう一つ面白いのは、コンピューターペンシルが勉強嫌いの願望をかなえる道具でありながら、勉強の価値を逆に浮かび上がらせるところです。答えだけを得ても、なぜそうなるのかは分かりません。分からないまま百点を取ると、次の授業や会話で困るのは自分です。

ドラえもんがこの道具を出すことで、のび太は一時的に結果を手に入れます。けれど、道具が奪われたり壊れたりすれば、すぐ元に戻ります。気持ちを支える道具とも違い、コンピューターペンシルは外側の答案だけを整え、本人の中身までは変えてくれません。

もし学習補助として改良するなら、答えを書く前にヒントを出す形式が理想です。最初は考え方を示し、次に途中式を促し、最後に答え合わせをする。そうなれば、ズルの道具ではなく本当に優秀な家庭教師になります。けれど作中のものは、のび太の百点願望へ一直線に応えるからこそ、短編としての面白さが生まれています。

道具の見た目が機械的なのも、初期ドラえもんらしい味です。今なら小さなチップや普通の鉛筆型にできそうですが、あえてメカメカしい外観だからこそ、未来の道具を手にした特別感があります。のび太が頼りたくなる気持ちも、この見た目からよく伝わります。

また、鉛筆という形をしているからこそ、子どもの日常に入り込みやすい道具でもあります。机の上に置くだけで使えそうな身近さがあり、未来技術のすごさと学校生活の小さな悩みが直結しています。

コンピューターペンシルは、便利さと不正の境目がかなり近い道具です。本人が学ぶために使うなら補助になりますが、試験で使えば完全にズルになります。道具の性能そのものより、使う場面が道具の意味を決める。初期の短編でありながら、今の学習支援AIにも通じるテーマを持っています。

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